キャリアの頂点といわれる『さらば、わが愛/覇王別姫』
家父長制の価値観が色濃く残る中華圏では、今でもセクシュアル・マイノリティは異端視される。もちろん今を生きる若者世代の多くは、それがナンセンスなことも承知している。だが「伝統」という縛りを重んじる世代においては、いまだ理解が進まないことは確かだ。そのため、中華圏でLGBTQ+がカミングアウトすることは、かなり厳しい。
その抑圧が、当事者たちにどういう影響を与えるかということを、今一度考えてもらいたい。悲しいことに、それは今の日本で現在進行中だ。抑圧さえなければ起きなかっただろう事件は、最近ではryuchellさんの訃報が記憶に新しい。彼を追い詰めたことのひとつが、差別や偏見による抑圧だ。
このような事件が起こった際、多くの当事者の間では、事件そのもののショックとともに、「悲劇にピリオドが打たれるのはいつなのか」、といった声も多くあがる。彼らの自死のトリガーはさまざまな理由が取り沙汰されている。しかし、性的マイノリティだからといって批判されない差別や偏見のない世の中だったとしたら、結果が違っていたことは明らかだ。
民間レベルでは、同性婚への過半数を超える賛同を得られていると言われている今の日本でもコレなのだから、レスリーが命を絶った当時の香港でなら……想像に易いだろう。
彼が亡くなったとき、ファンはもちろん、それまで彼のプライベートを揶揄していたことがあるだろう香港の芸能関係者を含め、誰もが彼の死を悲しみ、悼んだ。だが、死んでからでは遅い。
彼を滅ぼしたのは、抑圧を受ける者に対して無理解な世の中であり、それは今もなお続き、悲劇の連鎖は止まっていない。彼が亡くなって20年という今こそ、考えなければいけないはずだ。
このタイミングで、彼の代表作であり、カンヌ国際映画祭で中国語映画初のカンヌ国際映画祭パルムドールをもたらした『さらば、わが愛/覇王別姫』が4K版でスクリーン上映されるというのは、運命的ではないだろうか。
レスリーのキャリアの中でも頂点といわれるこの作品をきっかけに、人を愛することの慈しみ深さ、ジェンダーやセクシュアリティにとらわれない自由、そして差別や偏見の醜悪さについて見つめ直したい。
文/よしひろまさみち
『さらば、わが愛/覇王別姫 4K』(1993)覇王別姫 上映時間:2時間32分/中国・香港・台湾
京劇の俳優養成所で兄弟のように互いを支え合い、厳しい稽古に耐えてきた2人の少年。成長した彼らは、程蝶衣(レスリー・チャン)と段小樓(チャン・フォンイー)として人気の演目『覇王別姫』を演じるスターに。女形の蝶衣は覇王を演じる小樓に秘かに思いを寄せていたが、小樓は娼婦の菊仙(コン・リー)と結婚してしまう。やがて彼らは激動の時代にのまれ、苛酷な運命に翻弄されていく……。カンヌ国際映画祭パルムドール賞を受賞し、世界中を感動の渦に巻き込んだ伝説の傑作が、公開30周年、レスリー・チャン没後20年特別企画として4Kで鮮やかに蘇る!
©1993 Tomson(Hong Kong)Films Co.,Ltd.
配給:KADOKAWA
7/28(金) より上映
公式サイト:https://cinemakadokawa.jp/hbk4k/