すべてのダメ出しをメモしていた南海キャンディーズ・山里
——どういった生徒がプロになる素養がある、と言えるのでしょうか。
センスや感性は教えられるものではありません。講師が教えられるのは、やはり技術面です。僕でいえば、NSCの生徒のネタ見せも1本に数えるとしたら、これまで30万本以上の漫才を生で見てきています。これは感性とかの話ではなく、単純に経験の差、引き出しの数が違います。その引き出しの中から、僕は生徒たちにアドバイスをするわけです。そのアドバイスをどう理解するか、どう利用するか、それは生徒しだい。
どれだけ努力して頑張ったとしても、教えたことをできなかったり、参考にできない生徒はものになりません。賑やかしにはなれますが、金を稼ぐプロにまでは到達できない。ですから、お笑いのセンス・感性はもちろんなこと、教えられたことを理解して応用するためのセンスや感性のほうが必要なんですよね。
——バラエティ番組で芸人が「ネタ見せで言われるダメ出しなんか意味がない」とか「言うこと聞かなくてよかった」みたいなことをトークのネタとして話しているのを聞くのですが、あれは……?
僕が教えた生徒でも、言うことを聞かずに売れた芸人はたくさんいますよ。むしろそっちのほうが多いんじゃないでしょうか。全部聞き入れるのではなくて、「たしかにそうだな」と思ったことだけを参考にすればいいんです。全部が全部を言われた通りにするんじゃなくて、100のうち1つでも、自分にプラスになりそうなことがあったら取り入れたらいい。ただ、勘違いしないでほしいのは笑いに正解はありませんから、私を含めた講師が言っていることが間違っているわけではないんです。
人に言われた通りにはやりたくないっていうタイプがいつの時代も一定数いますけど、遠慮と躊躇は敵です。何かダメ出しをされたとき、たまたま講師が指摘しただけで、実際は観客の多くが感じることかもしれない、そう思ったほうがいいですね。それで言うと、南海キャンディーズの山里亮太はすごかったですよ。
自分が言われたダメ出しだけじゃなくて、別の人が言われているダメ出しもすべてメモしてましたから。メモしたうえで、必要なものだけを取り入れる。漫才師としてはもちろん、生徒としても優秀でした。(敬称略)
取材・文/おぐらりゅうじ