野生爆弾のくっきー!は一目見て「常軌を逸したやつが来た」

——芸人を志す人たちの変化はどうでしょう。

昔の芸人は、漫才でもコントでも、形にこだわるよりも、とにかくおもしろいことをして目立ってやろう、という意識が強かったように思います。それがここ10年くらいは特に、NSCに入ってきた時点で、すでに形を知っているんですよね。これはYouTubeの影響が大きいと思います。

素人のときからいろんな漫才やコントを見まくっているので、自然と形が身についている。そうなると、うまいのはうまいんですけど、何でもいいからおもしろいことをしてやろう、というふうにはならないんですよね。漫才やコントはある程度上手にできても、「なんだこいつは!」みたいな型破りのおもしろさは薄くなってきたように感じます。

——今活躍している芸人の中で、NSCのときに「なんだこいつは!」と思った人は?

野生爆弾の川島(現・くっきー!)が入学してきたときは、一目見て「常軌を逸したやつが来た」と思いましたよ。腰にジャラジャラ10本くらい太いチェーンを付けていて、そのままネタ見せをやるんです。でも僕が「うるさいからはずせ」と言ったら、「はい」って。めっちゃ素直なんかい、と思って拍子抜けしましたけどね。

野生爆弾のくっきー!こと川島邦裕 写真/Best Image・アフロ
野生爆弾のくっきー!こと川島邦裕 写真/Best Image・アフロ

彼はネタも意味がまったくわからなかったんですけど、ネタ見せのあとに「あれは何なん?」って本人に聞いたら、「あれはこういうことで……」って、ちゃんと答えるんですよ。はたから見たら意味がわからなくても、本人としてはきちんと理屈が通っている。いわゆる世界観というやつですね。自分なりの世界観を持っているなら、僕からは「好きにしいや」と言うしかない。

——本多さんが生徒たちに言う「好きにしいや」は、NHKの『プロフェッショナル 仕事の流儀』(2021年4月13日放送「笑いの鬼は、笑えない〜お笑い養成所講師・本多正識〜」)でも印象的に取り上げられていました。

僕が「好きにしいや」と言うのは、どんなにめちゃくちゃでも本人なりに筋が通っている場合です。何も考えずに無茶苦茶やるのはダメですが、意図があって理屈も考えられているなら、好きにやらせるしかない。そして、僕が最初に「好きにしいや」と言ったのがくっきー!でした。その言葉以外に言いようがなかったんですよ。ダメ出しやアドバイスを挟む余地がなかった。くっきー!のあとは、天竺鼠の川原かな。彼も規格外でしたね。