希少車や絶版車の販売を行う「ビンゴスポーツ」(名古屋市)の営業スタッフは「ネオクラシックの価値が上がっているのは日本に限らず、世界的な傾向です」と説明する。

「ネオクラシックは今まで安すぎたと思います。近年、空冷エンジンのポルシェ911(1963〜93年生産)を始め、ネオクラシックのスポーツカーの値段が世界的に上がっています。ひと昔前までは、自動車オークションの一番人気は“馬車”でした。馬車とは文字通りに馬車のようなボディにエンジンが付いた、自動車創成期のクラシックカーです。あとはF1マシンなどのレーシングカー。でも、それらのクルマは動かすのが大変ですし、値段もそれほど上がっていません。今はトレンドが変わってきて、動くクルマが人気。ネオクラシックは乗っていて楽しいし、投機にもなりますし、資産としての流動性も高い。今の状況をキープしておけば、絶対に損はしないので、富裕層が購入しているのだと思います」

「安くなるかな」と思ったら2倍に高騰

実際にネオクラシックカーを持つ人に話を聞くことができた。2年半前に2002年最終型のホンダの初代NSX-Rを購入したという神奈川県在住の男性だ。まだ30代だが仕事で成功し、子どもの頃に憧れたていたホンダNSXの最強モデルを思い切って買ったのだという。

「僕がクルマを探し始めた3年ほど前でもすでに最終型のNSX-Rの値段は高騰しており、中古車サイトでも程度のいいものは3000万円オーバーになっていました。初期型(1992年型)のNSX-Rでも2000万円くらい。僕はたまたま3000万円を切る値段で、知り合いの業者から購入することができました。でも今では最低でも4000万円、場合によっては5000万円以上で販売されています。初期型でも3000万円です。今の値段だったら、もう買えなかったと思いますので、ギリギリ間に合いましたね」

そう笑顔で話した男性だが、憧れのNSX-Rを入手する少し前に苦い経験をしたという。彼は1998年にスバルから発売された初代インプレッサの限定モデル、22B STIバージョンの中古車を購入しようとしていた。このモデルはスバルが世界ラリー選手権で3連覇を達成したラリーカーの外観を、同社のモータースポーツ部門のスバルテクニカインターナショナルが再現し、走行性能も追及したハイパフォーマンスモデルだ。当時の新車販売価格は500万円で、限定400台が販売された。

「インプレッサの限定車が中古車サイトに掲載されていたんです。最初に見たときの価格は400万円くらい。『ちょっと高いな、もう少ししたら安くなるかな』と思っていたら、次にサイトを見たときには価格が2倍以上の1000万円超えに。そしていつの間にかサイトから消えていました。そしたら最近、このモデルがイギリスで4000万以上で販売され、すぐに買い手が見つかったというニュースを見ました。あのとき、買っておけばなぁ……と後悔しています」

たった1年で1000万円→2000万円。業者も「常軌を逸した価格の上がり方」と驚く“国産旧車バブル”の裏側とは(前編)_h
1992年発売のスバル初代インプレッサ(22B STIバージョン)。ラリーの盛んなヨーロッパで高い人気があり、4000万円以上の価格で販売されたことが話題になった photo by Subaru
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この男性が購入したNSX-Rは売値がそもそも数千万と高額で、誰もが簡単に手を出せるクルマではない。しかし、後編で紹介する男性の話は、まるで「わらしべ長者」のようだ。普通のサラリーマンが安価で買った国産中古車が、気がついたらとんでもない価格になっているというのだ。

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取材・文/川原田 剛
撮影/五十嵐和博
取材協力/旧車イベント「スタルジック2デイズ 2022」