日本の財政再建についての「きな臭い動き」
税収は、インフレによっても増える。最近は、税収70兆円も目前になるまでに増えた。政府の「中長期の経済財政に関する試算」(2023年1月)では、2022~2032年度までの11年間の成長実現ケース見通しが示されていて、税収は68・4兆円から92・9兆円へと1・36倍に増えることになっている。政府の支払能力が増えるということだ。
日本の財政が信用を保ち続け、地道に再建計画を履行していくしかない。しかし、その代償として、低金利を我慢しなくてはいけない。その低金利を我慢している間に、元本返済を開始して、税収の余裕を作る。その余裕の度合いに応じて、少しずつ日銀は政策金利水準を引き上げていくことができる。
日銀の黒田前総裁は、退任時期が迫る2022年12月に、長期金利の変動幅の上限を0・25%から0・50%へと引き上げることを決めた。短期金利を0・1%のマイナスに据え置く方針を維持しつつ、長期金利のところは変動幅を広げることを許容して、事実上の長期金利上昇を認めたかたちだ。
後任になった植田総裁は、今後本格的な利上げに動く準備をしているという見方もある。筆者は短期金利のマイナスをプラスに引き上げるのはまだ先だと予想する。企業の資金調達に影響力があるのは、短期金利を動かすことだ。
大局的に見て、基礎的財政収支の黒字化を2025年度に果たすことは、本格的に植田日銀が利上げを実行していくための前提となるだろう。そうした意味では、私たちはしばらくの間、低金利を我慢せざるを得ない。
反対に、財政再建についてかなりきな臭い動きがあることも事実だ。2022年5月から、政府はそれまで毎年、「骨太の方針」のときに確認していた2025年度に基礎的財政収支を黒字化するという目標年限を発表しなくなった。約束の曖昧化である。
その背後には政治的な駆け引きがある。岸田政権は、財政健全化の目標自体は維持しつつ、財政再建を明確にするという方針を曖昧にした。官房長官の談話では「より明確なので、既定のこととして特に記載はしていない」としている。
案の定、2022年12月に発表された翌年度の政府予算案では、歳出が大きく増える結果になっている。一般会計歳出の総額は、114・4兆円になった。前年度の当初予算107・6兆円から一気にプラス6・8兆円の増加だ。理由は、防衛費を増やすための中期計画を実行し始めたからだ。防衛費の増強のために、今後5年間で43兆円を支出することになっている。
かつて日本は「アジア諸国に配慮」とか、「軍事大国にはならない」といった自制心が働いていたが、いとも簡単に節度は失われた。2022年2月に始まったウクライナ侵攻や北朝鮮の挑発が背景にあることは間違いない。