「財政不倒神話」の弱点

①と②の財政不倒神話の弱いところは、時間の経過とともに、顕在化した波乱がどう収束するかという経路が説明されていないところだ。例えば、長期金利が急上昇したときに、それをどのようにコントロールできるのかという道筋が登場しないところだ。

金融のメカニズムに沿って、債券需給がどうなるのかを説明しないところは、金融マーケットの人を納得させられない弱点になっている。これは分析手法が、静態分析に終始していることに原因がある。静態分析は常にその状態が現在そうあることを説明するだけだ。時間の経過や、変化の因果関係は登場しない。常に、危機は来ないと予定調和の世界を描いてみせているだけだ。

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例えば、日本国債を海外投資家が持っていれば、それが売られたときに、国債価格が下がらずに済むシナリオはあるのか。長期金利がどうやって低下に転じるのか、どのくらい金利上昇が長期化するのか、がわからない。

「日本は経常黒字国なので、海外投資家が保有国債をすべて売り切っても、日本の誰かが購入する」という話は、債券需給ではなく、国内資金移動の話だ。債券需給とマネー全体の話を同一視しているのも、金融関係者にはわかりづらい。

しかし、ごく単純に考えて、国内貯蓄が、すべて国債消化のために使われるというのは間違いだ。銀行は常に国内で企業や個人に貸出をしている。その残りの資金で国債を買っている。国債購入は、余資運用と呼ばれる。余裕資金で行っている運用という意味だ。国債の入札では条件が合わず、入札不調になることは起こる。国債価格は需給バランスで変化するものだ。

海外投資家が30兆円の日本国債を売ってきたとき、国内銀行がそれを全額消化できないことは十分に起こり得る。一国の国内貯蓄は、常に回転し続けていて、帳簿上のバランスシートで均衡が成り立っているように見えて、常に不均衡は生じている。その不均衡は、金利が上がったり、下がったりする価格メカニズムで調和が保たれている。

国内貯蓄+経常黒字=国内調達の図式が成り立っていても、常に金利変動や為替変動は起こっている。これは③も同じで、バランスシートが左右で均衡しているから、為替・金利変動が起こらないという理屈にはならない。マクロ的な帳簿上のバランスと、金融市場の価格変動を混同して考えてはいけない。