日本で観光名所化する台湾寺院
今年の4月中旬、法水寺に実際に行ってみたところ、山腹の広大な空間が寺域になっており、駐車場から本堂(大雄宝殿)まで238段もあるという石段が長々と伸びていた。天候は快晴で、ウグイスの鳴き声と新緑が五感に心地いい。寺域には宿坊のほか、写経所や禅堂などさまざまな建物があり、いずれも極めて壮麗だった。
温泉旅行のついでに見に来る人も多いらしく、10分間に1組くらいは訪問者がいる。多くは日本人だが、なかには伊香保温泉に来たついでにお参りにきたという台湾人観光客の信者もいた。
「人間仏教」を掲げる佛光山だけに、山内には仏様のコスプレコーナーがあるなど、日本の寺では見られないシュールな一角もある(けっこう楽しい)。いっぽう、寺院内の仏像にはそれぞれ、それがどういう仏様なのかを解説する日本語の文章が付いていた。予備知識がない人にも教えを伝えようとする親切な取り組みは好印象だ。
出口付近には、台湾式の精進料理をおしゃれな形態で出す「ベジカフェ 滴水堂」という食堂がある。日本の場合、精進料理は味の薄いストイックな作り方がなされることが多いのだが、中華圏の場合はむしろ、「肉を食べてはいけないのでかわりに大豆で肉と似たような味を再現する」といった、いわば肉料理や魚料理のジェネリック料理を作る。
この中華系精進料理は「素食」と呼ばれ、本物の肉や魚の料理と勝負しても負けないほど美味しいのが特徴だ。たとえ肉や五葷(ネギやにんにくなど)を絶っても美食を諦めない、中華文化らしい食べ物である。
海外展開と多角経営に成功した宗教
佛光山はややアクが強い教団だが、宗教的には真面目だ。実際に法水寺を見ても、とにかく間口を広げて多くの人に仏教を広めたいという意気込みを感じる。日本の寺院関係者が学ぶべきところもたくさんありそうだ。
もっとも、佛光山のアグレッシブな海外展開や布教、多角経営などの特徴が、今後も現在のテンションを保っていけるかは見通せない。特に政治への接近や中国共産党との熱心な交流は、外省人の1世である星雲の個人的な思いが大きいと思われるだけに、今後は世代がかわることで徐々に変わっていきそうだ。
新興教団を大成長させたカリスマ的な宗教家が亡くなることで、当初は尖っていた教団の雰囲気がマイルドになり、よくも悪くも普通の宗教団体として社会で受け入れられていく。佛光山もこのパターンに入っていくのかもしれない。伊香保温泉を訪れたときには、すこし足を伸ばしてそんな佛光山の変化をウォッチしてみるのも面白そうである。
取材・文/安田峰俊 撮影/Souichiro Koriyama
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