年収400万円、暇な時だけ呼ばれる「2番目の男」

LINE移行してから3日目、レッスンが休みの日にカフェで会おうということに。だが残念なことにその日、マークさんのイメージが変わってしまった。良くないほうに。

彼が爽やかなスポーツマンから一変したのは、私の疑問を本人にぶつけた時だ。

「コーチってモテますよね? なぜ今までシングル一筋だったんですか? 独身がポリシーだったんですか?」。するとこんな答えが返ってきた。

「テニスコーチは給料が安いから、掛け持ちしてもボーナスがない分会社員の年収とは違う。がんばっても400万円ちょいぐらい。嫁さんが高収入でないと子供を養うのも大変だし……それに俺はいつも2番目の男だから」

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一瞬、「2番目の男」の意味がわからなくて、もう一度聞き返す。

「都合がいい男というか、相手が暇な時だけ呼ばれるみたいな……。そういうのが多くてもう慣れてるけど」

暇な時だけ呼ばれる……ピンときた。つまり生徒の主婦の不倫相手として夫がいない日、呼ばれるということだ。マークさんに確認すると曖昧にぼかしていたが、否定はしなかった。スクールの生徒の不倫相手。あまりにもありがちな話かもしれないが、「スラムダンク」や「テニプリ」のように爽やかで誠実と信じてマッチングしたスポーツマンが、人妻の浮気相手とは残念すぎる。

マークさんとはもはやこれまで、と考えていた矢先、さらなる打撃が襲ってきた。2日後の深夜、突然LINE電話が……。

「レッスンのあとマッサージをしてもらった。今終わったんだけど、これから君の家行ってもいい? 車で行くから住所を教えて」

最大限にギョッとした。テツさんとはまだ一度、カフェでお茶をしただけで、次に会うとも付き合うとも約束していない。なのに突然家に行くよってどういうこと?

「これからってもう深夜ですよ。わかってます?」
「うん。明日はレッスン休みだから泊まれるよ」

ついに本性を現した恐怖のヤリモクコーチ。つまり、これは彼がいつも生徒の主婦や取り巻きたちに使っている誘い方なのだろう。結婚相手を募集と言いながらマッチング相手にもこんな方法を使うとは。爽やかな青空の下のスポーツインストラクターというアバターで、これまでどれぐらい婚活女性を罠にかけたのか?

誰もが目を留めるほどキラキラすぎるアイキャッチなプロフィール写真を見たら、「いいね!」をする前に立ち止まって考えてみてほしい。それは最大限にイメージを美化させたアバターであって、あなたが会うのは美化を剝がした「中の人」なのだ。

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『マッチング・アプリ症候群 婚活沼に棲む人々』 (朝日新書)
速水 由紀子
2023年6月18日
979円
280ページ
ISBN:978-4022952226
結婚相手を見つけ、2人で退会するのがマッチングアプリのゴール。しかし本書では、このアブリ世界に彷徨い続け、婚活より自己肯定感の補完にハマり抜け出せなくなってしまった男女を扱う。アプリで次々に訪れる流動的な人間関係の刺激は、中毒性が強い。相手をどんどん乗り換え続けることで生きる糧を得ている人々、離婚や失恋でトラウマを抱え、婚活と名乗りつつセフレ的な付き合いしかできなくなった人々、等身大な自分を見失って500の「いいね!」をコレクションし、自己肯定感の上昇のみを求める人々。マッチングアプリの婚活沼に依存するディープな住人たちを、「マッチング症候群」と名付ける。 * 恋愛をメンタルを不安定にするリスク要因と捉える20代にとっては、言い争いや修羅場、負の感情の存在しないアプリは心地よい理想の場。 * 年代が上がるにつれて利用期間が長くなり抜けにくくなる→40代50代は婚活ではなく、孤独な老後の友人達を増やすだけ * 特に数々の恋愛で目が肥え妥協できなくなっているアラフォー女性たちにとっては、イケメンな富裕層経営者やハイスペックなモテ男とマッチングし、会って食事できることほど自己肯定感を上げてくれることはない。その本命になるのはほぼ絶望的だが、高級店でディナーを奢ってもらい言葉上手に口説かれて舞い上がれる。「自分はまだまだイケてる」と信じられる…etc.
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