盛りすぎ写真の裏に辛い過去

中学の頃、近視で目を細くしないとよく見えず、きつく見えたために「怖い」と言われたのもショックだった。すぐにコンタクトを入れて二重テープで少しでも大きく見えるように努力した。

「付き合っている彼が泊まりに来るとスッピンを見られたくなくて、メイクをしたまま寝てた。顔ばかり気にしてるから話も盛り上がらないし、退屈な女だと思われてるかもってますますコンプレックスが重なって。本当はあちこち整形をしたいけど、何百万円も貯金が貯められない」

アプリのプロフィール写真に渾身の写真をアップしたのも、そのコンプレックスを跳ね返すためだ。が、「自分なんか」と卑下する感情が強いためチヤホヤされると次の瞬間、谷底に突き落とされるのではないかと逆に不安になってくるという。

今までにマッチングした8人とは、メッセージのやりとりやLINEだけ。話が弾んで会いたいという人には、「今、別にお付き合いを考えている人がいる」と噓をついた。何のためにアプリに入会したのか自分でもわからなくなった。

「会った後で断られたらショックが大きくて立ち直れない。またコンプレックスが深くなりそうで」

だが今回、マッチングした相手は今までの人とは少し違っていた。

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資金を貯めて整形手術を受けるか迷っている

他の人はみんな写真のリエさんを褒めてくれたが、彼はリエさんの入っているコミュニティがいくつも重なっていること、その中に自分も好きなミュージシャンのコミュがあったのがうれしかったと書いてくれた。それに彼の自己紹介には「一緒にいて楽な人がいい」「自分の前で自然体でいてくれる人が理想」と書いてある。

自分の現実の顔を見たら失望するかもしれないが、このまま誰とも会わずに退会するのも虚しすぎる。思い切って会ってみようかと考えている。

「まだ彼とこの先どうなるかわからないが、リラックスして自分を出せる関係になれたら。でも心のどこかで自分を好きになってくれる人なんか絶対いない、いたら気持ち悪いと思ってしまう」

リエさんは今、アイコン写真を奇跡の一枚からいつもの自分に近いものに替えるか、資金を貯めて整形手術を受けるか迷っている。

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『マッチング・アプリ症候群 婚活沼に棲む人々』 (朝日新書)
速水 由紀子
2023年6月18日
979円
280ページ
ISBN:978-4022952226
結婚相手を見つけ、2人で退会するのがマッチングアプリのゴール。しかし本書では、このアブリ世界に彷徨い続け、婚活より自己肯定感の補完にハマり抜け出せなくなってしまった男女を扱う。アプリで次々に訪れる流動的な人間関係の刺激は、中毒性が強い。相手をどんどん乗り換え続けることで生きる糧を得ている人々、離婚や失恋でトラウマを抱え、婚活と名乗りつつセフレ的な付き合いしかできなくなった人々、等身大な自分を見失って500の「いいね!」をコレクションし、自己肯定感の上昇のみを求める人々。マッチングアプリの婚活沼に依存するディープな住人たちを、「マッチング症候群」と名付ける。 * 恋愛をメンタルを不安定にするリスク要因と捉える20代にとっては、言い争いや修羅場、負の感情の存在しないアプリは心地よい理想の場。 * 年代が上がるにつれて利用期間が長くなり抜けにくくなる→40代50代は婚活ではなく、孤独な老後の友人達を増やすだけ * 特に数々の恋愛で目が肥え妥協できなくなっているアラフォー女性たちにとっては、イケメンな富裕層経営者やハイスペックなモテ男とマッチングし、会って食事できることほど自己肯定感を上げてくれることはない。その本命になるのはほぼ絶望的だが、高級店でディナーを奢ってもらい言葉上手に口説かれて舞い上がれる。「自分はまだまだイケてる」と信じられる…etc.
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