「今度はどうやって会うのを断ろうか」

半年前、ある大手アプリに登録した会社員のリエさん(39歳)は、メールボックスにマッチングの通知を見つけて憂鬱になった。

相手は昨日、自分が足跡をつけた同世代の会社員だ。176センチ、細身で顔もリエさん好みのシュッとした細面だし、音楽や本の好みも割に近くて相性が良さそうだ。きっと会ったら自分は気に入るだろう。それなのに……。

「今度はどうやって会うのを断ろうか」

いつものようにそう考えている自分がいた。去年、リエさんがプロフィールにアップしたのは、人生最大に盛れた別人級の「奇跡の1枚」だったのだ。今年を逃したらもう婚活も難しいかもしれないと、写真の撮影にはかなりの時間とお金をかけた。

まずは美容クリニックで目元や口元にボトックスを入れて5、6歳若返る。それからヘアサロンでセミロングの髪色を暗めの清楚系に戻し、メイクは2時間以上かけた。肌のくすみや目の下のクマをコンシーラーでカバーし、奥二重をテープとマスカラ、アイラインで元の目の大きさの2倍はあるバッチリ二重にして、そのうえ、体型補正下着で胸を1.5倍にしたという。ライティングを万全にしたスタジオでプロに撮ってもらった写真は、もはやリエさんとは別人級に盛れていた。

この世は地獄…出会いアプリでマッチョアピールして好みの女性をジム勧誘する男vs写真盛りすぎてマッチしてもリアルで会えない女_4

盛れすぎた奇跡の写真をメイン写真にしてしまったので…

「その盛れすぎた奇跡の写真をメイン写真にしてしまったので、『いいね!』はすぐ200近くついた。みんなにきれいすぎて一目惚れした、こんな美人さんと一度でも会ってみたい、と言われれば言われるほど荷が重くなって。会うたびに2時間フルメイクしたとしても写真と現実は整形級に違う」

もう少しいつもの顔に近いものにしておけばよかったと後悔したが、今さら、写真を替
えるわけにもいかない。

リエさんには容姿コンプレックスがある。

子供の頃、周りに「お姉ちゃんはママそっくりで美人。リエは誰似?」「顔の系統が全然違う」と言われ続けて傷つき、成長しても容姿コンプレックスが抜けなかった。

「だから恋愛でうまくいかなかったり、採用試験に落ちるたびにやっぱり顔のせいかも、と思ってしまう。美人の姉や友人が周りにチヤホヤされて、職場でも男性上司に優遇されているのを見ると、どうせ自分なんかと卑下する感情が出てきてしまうし。そのたびに自分は価値がないと思って落ち込んでしまう」