すごくマジメな人なのに…
口下手で自分から相手の楽しめる話題を振るのが苦手というリョウさんにとって、アプリのメッセージやLINEトークを長く続けるのは苦痛だ。深夜のLINE交換は話題に困ってついスタンプを多用し、早めに寝てしまって相手を怒らせることも多い。だからとにかく言葉の必要ないスキンシップに持ち込みたいと焦り、それが逆にチャラいと警戒心を抱かせてうまくいかないことが多いという。
結婚前提のマッチング・アプリではスキンシップが早すぎると、ヤリモク、ナンパと間違えられて関係を絶たれる。それを指摘すると初めて気がついたと驚いていた。
しかもリョウさんがイタリアで学んだのは、年上のマダムに上手に甘えて可愛がられる若い恋人やジゴロ的な付き合い方。向こうではそれでお小遣いを貢がせて暮らしているツバメ的な男性も少なくない。日本でいうところのママ活だが、スキンシップのうまさは日本人の比ではないという。
それを学んでしまったヒデさんは、同世代や真剣な交際を求める人には遊び人と誤解されても仕方ない。だが、アプリ入会の動機は真面目そのもの。
「今の職場は男ばかりで女性との出会いがないので、結婚を前提とした恋人探しをしたかった。でもメッセージやLINEで気に入られないと次に行けないから、文章が下手で話題を盛りあげられない僕には難しい。早めに会って自分を気に入ってもらう方法があったら教えてほしい」
リョウさんにはその後2、3回会ったが、コミュニケーションへの苦手意識が大きな壁だった。「抱きしめたい」「キスしたい」……そして会話のネタにつまると突然、連絡が取れなくなったり、1週間後、ひょっこり連絡してきたり。仕事がブラックでほとんど休みが取れないらしく、体調も壊しがちだという。かなり前から始めた転職活動が進まないのも、コミュ下手が邪魔をしているらしい。
アプリでの振る舞い方に悩む男性
最終的には短期間で別れを告げたが、やはり日本の婚活業界では理解されにくいのか、何度かまた会ってと連絡が来た。シャイで内気すぎるコミュ下手のイタリアンボーイ、という矛盾に満ちたリョウさんは、今もこの矛盾を突き破れずにいる。
アプリは女性のリスクを減らすようにシステムが組まれている。
だから女性に詐欺やセックス目的だと判断された場合、運営に通報されると強制退会されるし、悪質なヤリモク男はブラックリストに載せられてSNSで晒されることもある。それでも完全にアプリの悪用を防ぐことはできないし、当然、真面目な交際と遊び目的の境界が曖昧な場合もあって、トラブルの種になる。
その一方でセクハラ、性暴力への社会的視線はどんどん厳しくなってきている。弱気な男性にとっては「下手に手を出したら一巻の終わり」という恐怖感もつきまとい、どう動いたらいいかわからず戸惑うことも多い。
では清廉潔白をアピールするために徹底して非性的に振る舞うべきなのか、それとも早めに恋愛モードに持ち込むべきなのか。アプリの出会いで最も男性が迷うのがここだろう。