もうひとつの隠語「あいつ、ガイジだよなあ」

前編からのつづき

先月、等松春夫教授が示した論考(防大の諸問題、ひいては防衛省・自衛隊が抱える構造的なリスクまで訴えるところ)で教授が触れた、教育部署に配置される自衛官に対する隠語「病人・けが人・咎人」について、防大は『部隊勤務の経験を有する陸上・海上・航空の各自衛官、事務官等に聞き取りを行ったが、そのような表現が本校で普通に使われているという事実は把握できなかった』【4】と回答したようですが、これらのフレーズは私もたしかに耳にしたことがあります。

防衛大現役教官が訴える学内の問題。聞くに堪えない隠語、偏った図書館の選書、一律に与えられる補職…「学生時代には、ぜんぜん勉強しなかった」と自嘲する将官たち【防衛大告発を読んで】_1
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もっと問題のある隠語として、学生舎で平然と使われている〈ガイジ〉があります【5】。「障害児」から派生した言葉で、きわめて不適切です。8人単位の共同生活において、「できない」とされた学生に対して、「あいつ、ガイジだよなあ」などと陰でささやくのみならず、本人に対しても「お前は、ガイジなんだから」などと直接呼びかける。

特に問題なのは、これが不適切な差別を助長する語だという意識をもたない学生が多くいることです。1年時に〈ガイジ〉と呼ばれ、憤慨していた学生が上級生になると、同じ呼称を下級生に使うという事態が繰り返されています。

おまけに、学内で〈ガイジ〉の問題性を指摘すると「いい意味もある」と反論する者までいます。要するに「普通でない才能をもつ者」という意味で使われることがあるというのです。この詭弁は学生だけでなく、指導官(幹部自衛官)などからも聞いたことがあります。

なお〈ガイジ〉と呼ばれた複数の学生は私が見るかぎり、必ずしも能力が低いわけではないことは強調しておいてよいと思います。むしろ仲間内のルールや体育会系のノリについていけないような知的な学生であることも多いように感じられます。

軍人には体力が必要だーーそれも分かります。しかし複雑化した現代の軍隊においては、むしろ体力だけで務まる職域のほうがはるかに少なく、多くの職域では卓越した知性が求められているのです。

なのに、なぜこうまで、自衛官教官や高級幹部たちは「勉学」を軽視するのでしょうか。等松論考にある通り、自衛官教官の補職にスクリーニングが効いていないのは事実だと思います。

原則論としては、防衛学を教える適格性が高いのは「軍人」たる「自衛官」でしょう。それは否定しません。ただ外部からの評価として、適格性の証明がいっさいなされないまま、長年にわたって1佐以上は教授、2佐、3佐以上は准教授と一律に補職してきたことの功罪は相半ばではなく、ネガティブな側面のほうが大きいのではないでしょうか。