「必要なら、自分で自分に戦力外通告をしなければ」
24歳で芸人を引退。その後、下積みの期間を経て、自分の戦場を見つけたカネシゲ。実は、コンビとして活動しているときに漫画家デビューを果たしていたのだが、相方には知らせていなかった。
「『ジャンプ』で賞をとって担当編集者もついたんですが、自分の作品が掲載されたことを岩尾には言えませんでしたね。賞金ほしさに応募したというのもあるし、岩尾がネタをつくってくれているのにほかのことをすることに抵抗があって」
しかし、その経験がカネシゲの進路選択に大きな影響を与えた。
「お笑いの仕事が忙しくなって漫画を描くのをやめたんですけど、ひとりで紙に向き合ってペン1本で描くのならば自分でも戦えるかもと思ったのは事実ですね。
だから、コンビ解散のときに『漫画に行く』と言えたんでしょう。芸人をやめるタイミングはもっと早くてもよかったかもしれないけど、今から考えればベストだったと思います」
今も芸人時代の仲間とバンド活動を続けるカネシゲは、後輩から相談を受けることもある。
「やめようかどうか迷っていますと。そんなとき、僕はこう言います。好きだったら続ければいい。なぜならそれは生きがいだから。才能がなくても続けるべきでしょう。ただ、それほどの情熱がなくなっているのなら、やめたほうがいいでしょうね。時間がもったいない」
誰もが1年ごとにひとつずつ年をとる。この先、売れない芸人には厳しい未来が待っている。
「長く芸人でいればいるほど、違う世界に踏み出せなくなる。この先どうするかは、自分で決めないといけない。必要なら、自分で自分に戦力外通告をしなければ」
元相方はテレビの世界で、カネシゲは別のフィールドで――それぞれの道を歩んでいる。
「自分の頭の中にあるものを形にする――漫画という表現の幅は広いです。でも、今ではもう、やりたいことは漫画だけではなくなっています。
コラムも書きますし、舞台や野球イベントの構成を任されることもあります。最近はテレビ番組のイラスト制作の仕事が急増し、会社もつくりました。
5歳の娘がいるんですけど、子どものための絵本も書いてみたい。いろいろな勉強をして、準備をして、絵本を描くことをライフワークにしたいという思いがあります」
元芸人の“敗者復活戦” #1 笠川真一朗(芸人→プロバスケットボールチーム広報)
取材・文/元永知宏
編集・撮影/一ノ瀬 伸