自制心の強い子どもは、勉強や仕事において成果を上げる
動物の血をコントロールするのは自制心です。この自制心が人生にどのような影響を与えるかを調べた「マシュマロ実験」という有名な実験があります。元スタンフォード大学教授で、現在コロンビア大で心理学を教えるウォルター・ミシェル教授が、1970年に子ども時代の自制心と社会的成果の関連性を調査したものです。
マシュマロ実験は186人の4歳児が机と椅子があるだけの部屋に一人ずつ通され、実験者が子どもにマシュマロを一つ差し出し、「私はちょっと用がある。食べてもいいけど、15分後に戻ってくるまでに我慢できれば、もう一つあげる。私がいない間に食べたら、もう一つはなしだよ」と言って部屋を出ていき、その子どもたちの行動を観察するというものです。
一人残された子どもたちは、マシュマロを見ないように目をふさいだり、机を蹴ったり、小さな縫いぐるみのように撫でたりして、誘惑に抗います。15分間我慢して二つのマシュマロを手に入れた子どもは、全体の約3分の1でした。
その後、40年にわたって追跡調査をすると、二つ目のマシュマロを手に入れた子どもは、大学進学適正試験(SAT)のスコアが平均点より210ポイントも上回っており、45歳のときは自分の希望する仕事に就いていたり、社会的・経済的地位が高い人の割合が目立って高かったのです。
このことから自制心の強い子どもは、そうではない子どもと比べ、勉強や仕事において成果を上げる割合が明らかに多いことがわかりました。
その後、別の専門家が再現試験を行ったところ、二つ目のマシュマロを手に入れられるかどうかは「子どもの育つ社会的・経済的背景」も影響することもわかりましたが、それでも自制心と社会的成果には、一定の関連性があるのは確かだと思います。
欲望は、「我慢する」のではなく「律する」
自制心があれば、それだけ努力ができる力があるわけですから、仕事で成果を出しやすくなるのは当然と言えます。もっとも、自制心を持つことの意義はそれだけではありません。
仕事で壁に阻まれたり、困難な状況に陥ったりしたときは、しばしば忍耐が求められます。耐える力、すなわち自制心とは、言い換えれば自分に打ち勝つ力です。
このとき、自分に打ち勝つ力のある人ほど、普段から自分を律する習慣を持っているはずです。
動物の血を優先させ、欲望の赴くままに生きれば、自分勝手な振る舞いになり、周囲との軋轢が生まれ、最後は孤立してしまうでしょう。
自分の欲望を「律する」という姿勢を忘れず、自分に勝つ力を備えている人は、荒ぶる動物の血を手なずけることができます。
一方で「我慢する」という感覚だと、ストレスがたまったり、心が折れてしまうことがあるかもしれません。ですから「我慢」よりは、「いい按配に整える」という感覚を伴う「律する」姿勢のほうが、動物の血をうまくコントロールできるように思います。
自分を上手に律する習慣を日頃から身につけていれば、仕事において成果を上げやすくなるだけでなく、困難な出来事があったときにも、必ずや役に立つはずです。
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