締めつけ? それとも格差是正?
中島 それと、今の中国について、政府が締めつけを強化しているので、国内にはすごく不満が溜まっているだろう、という見方をする人も日本にはいますが、私が見たところ、必ずしもそうではなく、たとえば政府による塾の禁止やゲームの制限は、多くのお母さんの望みでもあるわけですね。
一部のお金持ちは子どもに高い教育費をかけられますが、貧困層は子どもの教育にお金をかけられない。社会全体のことを考えて、格差を是正していこうというのが今の政府の方針で、それを支持する人も多いのです。
綿矢 柔軟に対応していくのも、生活力の一つかもしれませんね。
海外の情報には、どれくらいアクセスできるのでしょうか?
中島 政府は国民にとって不都合な情報は遮断していますが、VPN(バーチャル・プライベート・ネットワーク)を使って、海外のサイトなどに接続することは可能です。中国に住んでいる日本人もこれを使っています。
中国人も、たとえば中国国内でアメリカのニュースサイトはあまり見られなくても、VPNを使えば見られますし、アメリカに住んでいる中国人の友達経由で、間接的にアメリカの情報も入ってきます。
日本では「中国人は情報統制されている」という報道から、自国に都合の悪い情報はすべて手に入らないのだろうと思い込んでいる人がいますが、必ずしもそうではありません。
綿矢 友達同士や知人同士などの横のつながりや広さが、ずいぶん発達しているのかもしれませんね。中島さんは文化面や経済面からフラットに中国のことを伝えていらっしゃるので、「こういうカルチャーなんだ」と先入観なく読めました。そういう日本の書籍は少なく、中国人の内面を知りたいと思っている私みたいな読者は路頭に迷っていましたので、ありがたかったです。
中島 こちらこそ、私の本に目を留めてくださって、うれしいです。日本で中国のことといえば、政治や外交、マクロ経済に関する話題が多いですね。あとは「中国崩壊論」とか。中国人に直接取材して書いたものは少ないですが、私は中国人の生活や考え方、生き方などをもっと日本人に知ってほしいですし、中国人を身近に感じてほしいと思っています。
綿矢 そうですね。ネットなどで見ていると、意外と笑いのツボとか似てるんじゃないかと感じています。中国の文化や流行ってるもの、今の若い子たちの考えることを知りたいと思ったときに、その手段があまりなくて、残念に思っていました。中島さんが書かれているようなことをテーマにした本って、意外と少ない気がします。ハードルがあるのでしょうか?
中島 そんなことはないと思いますよ。日本では単に、中国の悪口を書けば本が売れる、と思っている筆者が多いので、文化的な情報は少ないのかもしれません。
でも、ネットの発達により、10年前に比べれば、中国の社会や文化に関する情報もずいぶん日本に入ってくるようになり、中国の存在感が増す中で、日本のメディアも変わってきていると思います。