見た目は男同士の姉弟婚…あまりに美しい

アマテラスがスサノヲからもらい受けた剣と、スサノヲがアマテラスからもらい受けた玉は、それぞれ男性器と女性器を表すでしょう。相手の剣もしくは玉を、それぞれ乞い受けて嚙みに嚙み、生まれる命……禁断の姉弟婚というだけでなく、セックス全般ということから見ても、これ以上、優美に幻想的に描いたシーンはないのではないか。

しかも繰り返すように、この時、姉は男装かつ武装している。
見た目上は、男同士の性愛行為と言えます。

“うけひ”の前提条件が決められていなかったため、このあと、スサノヲが勝手に勝利宣言し、アマテラスの食殿にクソをしたり、聖なる機屋に逆剝ぎにした馬を投げ入れて、驚いた機織女が機織道具で女性器をついて死んでしまい、アマテラスは天の岩屋にこもってしまうという悲劇が待っているわけですが……。

アマテラスとスサノヲの姉弟婚を、男同士の体外受精のように描くこのシーンは、古代人の妄想力というか、一種、BL趣味のようなものを浮き彫りにしているように思います。

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優れた神は女の「生む力」も具有する…男も子を生みます

ちなみに日本神話では男も子を生みます。

アマテラスと幻想的な子作りをしたスサノヲもそうですが、二人の父のイザナキは、死んだ妻イザナミを黄泉国に追った帰り、穢れを清めた道具や目鼻から多くの神を生み出しています。

最後にイザナキが左目を洗った時に生まれたのがアマテラス、鼻を洗った時に生まれたのがスサノヲです。

偉大な神は、女の「生む力」も具有しているというわけです。

ついでにいうと、子を生む男神は日本神話以外にも登場します。たとえば北欧神話の『エッダ』には、「男のくせに子供を生んだ神がここに来ているのは、ちと解せないぞ」(松谷健二訳『エッダ/グレティルのサガ 中世文学集Ⅲ』)というセリフがあります。

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『ヤバいBL日本史』 (祥伝社新書)
大塚ひかり
2023/5/1
1,034円
232ページ
ISBN:978-4396116798
BLは日本史の表街道である

BL(ボーイズラブ)、すなわち男同士の恋愛や性愛が描かれた作品は、近年のエンタメ業界で存在感を高めている。
こうしたBL作品を理解するうえで欠かせないのが、「妄想力」を土台とする「腐の精神」だ。
そして、これは突然変異で生まれたものではなく、日本の歴史に脈々と受け継がれてきた精神であると著者は言う。
本書は、『古事記』から『万葉集』『源氏物語』『雨月物語』といった古典文学や史料を題材に、「腐」を軸とした鮮やかな解釈で、新しい歴史観を提供するもの。
院政期に男色ネットワークが築かれた本当の理由や、男色の闇にあった差別と虐待の精神史など、これまで語られてこなかった日本史の本質を描き出す。
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