一瞬の出会い

ノルマさんの隣に立ったぼくは、彼女の横顔を見つめる。彼女は、集中して列車を見ている。とても長い車両が、ぼくらの横を通過していく。貨物列車が荷物を北へと運んでいる。移民は、いない。列車には、乗っていないように見えた。ぼくは、またノルマさんの表情を見つめる。

その瞬間、彼女の手が動いた。車両と車両の間に、人が乗っている。こちらに大きく手を伸ばしている。彼女は、しっかりと縛られた食料を空中に投げた。回転しながら空中を舞う食料。それを、移民の人の手が摑んだ。

「グラシアス(ありがとう)! グラシアス、マミ! グラシアス!」そう叫ぶ彼らは、一瞬で過過ぎ去っていく。一秒に満たない出会い。一瞬だけの出会い。ぼくは思わず彼らの向かう先を見つめる。フリアおばちゃんが、ペットボトルを移民に向かって投げている。そんなに列車に近づいたら、危ない!

見ているこちらがヒヤヒヤする距離感だ。移民の人は、受け取り損ない、ペットボ
トルが地面に転げ落ちた。次のポイントで待っていた、他の人がまたペットボトルを投げる。今度はナイスキャッチ! また移民は、叫ぶ!
「グラシアス! グラシアス!」

ボォオオオオオオオオオオオオオォォォォォォォ!

列車も叫ぶ。もう行くぞ、と。耳をつんざくような音だ。なぜか……涙が出そうになる。そして、線路脇にはぼくらだけが残された。

“野獣列車”でアメリカを目指す移民と、線路脇から走行中の列車に食糧を投げ入れる支援者たち。その一秒に満たない「一瞬だけの出会い」_2
撮影/嘉山正太

一瞬の出来事だった。列車は去り、また鶏の鳴く声が響く。のどかな農村の音が戻って
きた。ノルマさんは、その場を動かない。去った列車を、しばらくずっと眺めていた。ぼ
くらも眺めた。

そのときの気持ちは、いまもうまく言い表すことができない。ただ去りゆく列車をずっと眺めていた。なにかが心のヒダに残った。寂しさと暖かさが、残った。