礼電マニュアルが用意されている組も
組長レベルとなれば、どの組も依頼できる弁護士はいるという。
同時に組員らが行うのが、差し入れとそれに対する礼電対応だ。直参組長が逮捕という情報が流れるや否や、すぐに差し入れを行うのがヤクザ社会の礼儀なので、一報の直後から電話が鳴るという。
SNSの普及とともに情報伝達は早くなり、「案じる電話や、差し入れ先を問い合わせる電話をすぐに入れる。送り先の警察署を間違えるとヤバいんでね」(H氏)
差し入れる署を間違えれば、送り主である組長は警察の笑い者。この手のミス、というよりもはや不祥事は絶対にあってはならないのだそうだ。
差し入れされる物の多くは本だ。留置所では取調べ以外では、読書するぐらいしか時間をつぶす方法がない。
警察署では収容者に対し、1日3冊まで差し入れが可能という決まりがある。単行本でも雑誌でも小説でも漫画でも1日3冊だ。
六代目山口組は直参から傘下の団体まで直系の組織が70以上ある。それが一斉に収容先の警察署に差し入れを送ってくるというのだから、「警察もその日ばかりは図書館だね」とH氏は笑う。
逮捕した刑事は点数になるが、差入れ対応しなければならない警察官や留置係は大変だ。
「直参親分が逮捕されたとなると、直系団体が差し入れを一気に送るので、本の場合はその数は200冊にもなる。『○○から本が届きました』と教えてくれる警察署もあれば、そうでない署もある。
さらに、警察に置いておく場所はないし、収容者に与えられているのは小さなロッカーひとつで何冊も入らない。弁護士に持って帰ってもらうこともあるが、仕方なく送り返すこともある」(H氏)
ところが下手に返送すると、返された側は「オイオイ、なんでや」ということになるという。
「送り先の警察署を間違えてますか」と問い合わせてくる組もあり、そうなると差し入れを受けた組の担当者は関係各所に速やかに礼電を入れなければならないのだ。この時、間違いは許されない。そのため組ごとに担当がいて、礼電マニュアルが用意されている。
「間違わないよう、マニュアルを壁に貼っている組もある」とH氏は話す。そのマニュアルとはどんなものかを聞くと、「○○組、当番者の△△と申します。この度は、手前親分にけっこうな物をちょうだいいたしまして、誠にありがとうございました。お礼かたがたご連絡させていただいた次第です。叔父さんにもくれぐれもよろしくお伝え下さい」と慣れた口調で答えてくれた。