「選挙(投票)に行っても意味がない」との思い

池田 ツイッターで裁判への支援を求めていましたね。
 
五野井 自分が被選挙権を得られないことが民主主義にかなっていないと言っていました。
 
池田 供託金が高すぎること、そして被選挙権の年齢の規定が憲法違反だということで、去年、本人訴訟(弁護士なし)を起こしていました。被告(国)は出てこず、一回で結審してしまうんですが、しかし彼はめげずに上訴しました。高裁ではほぼ門前払いで、残るは最高裁ですが、その前に彼は爆発物をつくるなどという方向に行ってしまった。どうしてでしょう? あと2年待てば彼だって衆議院選挙などに出られるようになるのに。

山上徹也と日本の「失われた30年」。彼はなぜ、“弱者切り捨て社会”において誰にも救いを求めなかったのか?_2

五野井 待てなかったんでしょうね。だいたい、民主主義が大事だと言いながら、彼がやったのは民主主義に最も反する行為です。だから訴訟は「方便」だと思います。
 
池田 方便でそんなエネルギーが出ますかね?
 
五野井 出るのではないですか。方便で国会議員になっている人だっているんですから。山上被告にせよ木村容疑者にせよ、若い人なのに政治意識は高いという点では共通しています。政治意識がなまじっか高いがゆえに様々な悲劇が起きてきています。正当な自由民主主義の三権分立のプロセスでは解決できない問題があると早合点してしまったのでしょう。
 
池田 早合点させてしまう何かがあるということですね。
 
五野井 はい。先ほども申し上げたように、選挙などではなくても、デモなどで意思表示することは可能ですが、そう言うと「そんな悠長に待っていたら、支配者のいいようにやられるだけではないか」といったツイートが返ってくることもあります。
 
池田 民主主義を十全に信じられないというか、諦観がある。
 
五野井 多くの人が投票に行きませんが、それは「選挙に行っても変わらない気がするから」です。選挙に行ったりデモに参加したりすると世の中が変わると思える感覚のことを政治的有効性感覚と呼ぶのですが、それが高ければ多くの人が投票に行ったりデモに参加したりして、政治家がその声に応えます。しかしいまの日本はそれが低いので、投票率も4割程度になってしまっています。「投票に行っても意味がない」と思わされてしまっている。
 
池田 その点、岸本聡子さんを区長に当選させた杉並区民は違うかもしれません。「私の一票で変わった」と思えているかもしれません。
 
五野井 それがまさに政治的有効性感覚が上がったということです。政治的有効性感覚が高かったら、もしかしたら山上被告も木村容疑者も、あのようなことはしなかったかもしれません。