投資家たちは一斉にゴールドへ走った
今後の大問題はクレディスイスが起債したAT1債(ADDITIONAL TIER ONE)が紙くずになることだ。
2月末時点でAT1債保有が大きいファンドにラザード・フレール・ジェスティオン、GAMインベストメンツが運用する投資信託が含まれている。最大のファンドはサウジアラビア、ついでカタール政府ファンド、中国の富裕層もかなりの巨額を失ったと推測される。名門のピムコなどのファンドも大口債権者である。
悲観的なエコノミストはSVB、シグニチャー銀行の破綻が欧州へ飛んで、クレディスイスに及び、「いよいよ米ドル体制は崩壊し、いまは生命維持装置をつけているだけ」と主張している。論拠は米国赤字国債のうちの18兆ドルが海外の購入に依存しており、まさに過去30年の累積赤字と同額であり、この海外購入資金に枯渇がみられるからとする。
金融危機再来を目撃した投資家たちは一斉にゴールドへ走った。23年4月4日、東京の金相場は史上最高値をつけた。
投資家たちは理論に従って金投資をしているわけではない。通貨価値はなぜ変動するのか。固定相場なら安心できるではないかという原則論はまったく顧みられない。金は紙幣のようにある日、突然紙くずにはならないからだ。
日本円がやや持ち直しているのは「信用」
1971年まで米ドルは金兌換だった。ニクソン大統領が金本位制を離脱し、変動相場制に突入後は通貨が金融商品として投機の対象となった。たとえば2022年10月14日の1日だけをとっても、為替市場での取引が1000兆円を超えた。
もし手元にドル紙幣をお持ちだったら裏面を見ていただきたい。「この紙幣は金兌換です」とは書かれておらず、替わりに「IN GOD WE TRUST(神を信じるのみ)」と書かれている。サインは大統領でもFRB議長でもなく財務長官である。
為替相場を決める要因は第一に金利、第二に経常収支、第三が政治状況である。世界一低金利の日本の通貨が強くなることはない。
日本経済の自慢だった貿易黒字は資源輸入代金が円安で暴騰したため赤字に転落した。特許収入などで経常収支はかろうじて黒字だが、あまり円高圧力にはならない。であるとすれば日本円がやや持ち直しているのは「信用」なのである。
為替を固定相場とし、金本位に戻せば良いと古典的な正論を述べると、変動相場裨益組から猛烈な批判が浴びせられる。彼らが市場の多数派である。