デヴィッド・リンチが演じたのは…
そのクライマックス、とんでもないネタバレなので試写の段階では口外禁止でしたが、劇場上映も終わったし、そのネタで驚くような人は映画館で見ているはずだし、見なかった人は己の不得を呪うべきですから口外しちゃいますけど、ユニバーサルスタジオに入ったスピルバーグは、同じスタジオにオフィスがあった巨匠ハワード・ホークスとたった15分だけど会うことが許され、そこで実人生でも本当に聞かされたという、映画を撮る上で必要なことを教えられます。ホークスを演じたのは、同じ映画監督だけど作風的にはほぼ真逆ではないかとさえ思えるデヴィッド・リンチ。
リンチは『エレファントマン』(1980)が、配給を担当した東宝東和の巧妙な宣伝戦略で、”感動の実話”として1981年に日本で大ヒット。その勢いで監督デビュー作『イレイザーヘッド』(1977)が同年急遽上映され、その常人離れした趣味性が広く知られることになりました。イタリアの山師製作者ラウレンティス親子と組んで莫大な予算をかけた趣味炸裂のSF大作『デューン/砂の惑星』(1984)が公開されるのは4年後の1985年春になりますので、この連載で語ることはできません。今回はそのリンチが演じたハワード・ホークスが製作、その実ほとんど監督していたと言われる…ってちょっと待て!
リンチが演じてたのはジョン・フォードだよ! ハワード・ホークスのオフィスに行ったのは原田眞人さんだよ!
うわー! なんてこった!
この期に及んでハワード・ホークスとジョン・フォードを間違えるなんて映画を語る資格なしだよ!
黒澤明と溝口健二を間違えるか?
小津安二郎と成瀬巳喜男を間違えるか?
ジョン・ダイクストラとダグラス・トランブルを間違えるか?
しかも今回はスピルバーグの続きと見せかけて、新作『フェイブルマンズ』のラストシーンに登場したリンチ、というか「リンチが演じた“映画監督X”が1950年代に手がけた唯一のSF映画のリメイクが、1982年に公開されたのです!」というきれいな流れで考えていたのに、そのハブとなるべき映画監督の名前を間違えていたらどう頑張ってもつながりません。ふたりともほぼ同年代だし、ジョン・ウェイン主演の西部劇映画をふたりとも撮ってるし…なんて言い訳にならんだろう。足首を縄で括って馬で引きまわされるがよい!
ということですいません。
出直してきます。
文/樋口真嗣