無責任な農水省。老朽化の実態を調査していなかった

では、このうち更新の時期を迎えている施設はどれだけあるのだろうか。農水省に尋ねたところ、「調査はしていない」とのこと。物流危機が国家的な課題になる中、青果物集出荷施設の再整備もまたそこに位置づけられてしかるべきである。それなのに実態を把握していないのは、無責任な話ではないか。
 
代わりに頼りになるのが、農林中金総合研究所の尾高恵美主任研究員による論文「農協における青果物共同選果場の再編に向けた合意形成」(「農林金融」二〇一八年一二月号)だ。尾高主任研究員はこの論文で、JAの有形固定資産の老朽化の度合いを示す「資産老朽化比率」を試算している。この比率が高いほど、耐用年数が迫っていることを意味する。

その試算によると、1990年度は54.3%だったのが、2000年度には62.2%、2015年度には71.6%にまで上がっている。2016年度には設備投資の回復で71.4%とごくわずかに下がったというのものの、依然として高い水準であることに変わりはない。

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集出荷施設の稼働率の方が下がっている

さらに尾高主任研究員は、青果物集出荷施設の減少以上に稼働率のほうが下がっている事態を懸念している。
 
具体的には、青果物集出荷施設の数は、2007年度に4706だったのが、2016年度には4388と、9年間で6.8%減少した。
 
一方、青果物集出荷施設の需要量については、果物の二大主力であるリンゴとカンキツ類の栽培面積と出荷量でみている。すなわち2007年から2016年の栽培面積は、リンゴで4万2100ヘクタールから3万8300ヘクタールへと9.0%減、カンキツ類で8万2000ヘクタールから7万1000ヘクタールへと14.5%減となった。
 
加えて、リンゴの同期間の出荷量は74万8700トンから68万4900トンへと8.5%減となった。カンキツ類については、論文発表時に16年の統計が出ていなかったためか、2007年から15年の期間で比較している。つまり、127万622トンから95万7719トンへと24.6%減となった。尾高主任研究員も説明するように、出荷量については天候の影響や着花や着果の年次変動があるので一概に比較はできない。ただし、右肩下がりで来ているのは確かである。
 
以上を踏まえると、青果物集出荷施設の稼働率が低下する傾向にあることがうかがえる。

もちろんそれは、青果物集出荷施設の採算性の悪化のほか、施設の利用料が上がるという点で農家に悪い形ではねかえってくる。

青果物集出荷施設をどう再整備するのか。人手が必要な作業をロボットに任せたり、複数のJAが地域の壁を越えて共同で施設を運用するなど、やれることはたくさんあるはずだ。JAには、従来の枠にとらわれない柔軟な発想と実行力が求められている。

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