人を襲わないはずのクマが3度にわたりテントを襲撃
夕食後、全員がテント内で休んでいたところ、テントから6〜7メートル先にクマがいるのを一人が見つける。黄金色と白色の毛並みが目立つ、体長130センチほどのヒグマだ。しかし最初はみな怖がる様子もなく、興味本位で観察をしていたという。というのもこの当時、日高山系でクマの目撃情報はたびたびあったものの、人を襲うということはまず考えられていなかったからだ。もしクマが近づいてきても、大きな声を上げたり、大音量でラジオを流すなどすることで逃げて行くと周知されていた。
クマは離れたところからテントの様子を窺っているようだったが、徐々に接近してきたのち、外に置いていたザックを暴いて食料を漁り始めた。5人は隙を見てテント内にザックを引き戻し、ラジオを流して火を焚き、食器を叩くなどしているうちに、30分ほどでクマは立ち去って行った。
しかし午後9時頃、クマは再び現れる。テントに鼻息を吹きかけ、爪で拳大の穴を開けたが、また姿を消した。その夜はクマの襲撃に備え、2人ずつ2時間交代で見張りをし、午前3時に完全起床。出発準備を終えようとしていた午前4時30分頃、クマは三度現れた。
今度は大胆にもテントに手をかけ侵入しようとしたので、テントが倒れないよう中で必死にポールを握り、幕を掴んだ。5分ほどクマとテントを引っ張り合ったが堪えきれず、5人はクマと反対側の幕を開けて一斉に逃げた。50メートルほど走ったところで振り返ると、クマはテントを倒し、中にあるザックを漁っているところだった。
北海道学園大学のパーティーも
前日午後に襲われていた
再三にわたる襲撃を受け、ハンターの出動要請をかけるべく、5人のうち2人のみが下山した。なぜ全員で下山しなかったのか。それは金銭などの貴重品が入ったザックや、テントを取りに戻りたかったためだったとされている。実際、2人が下りている間に、クマがいなくなった頃合いを見て、残りのメンバーがザックとテントを取り返している。
2人は九ノ沢を下りた先の八ノ沢出合で、北海道学園大学のパーティーと出会った。実は彼らもクマに襲われ、予定を変更して下山している最中だった。
北海道学園大学も夏季合宿として、当初エサオマントッタベツ岳を経由してカムエクを目指していた。福岡大が最初にクマに襲撃された前日の24日に、春別岳の山頂で休憩をしていた5人のパーティーは、笹藪からこちらを見ているクマを発見。クマは人間を怖がる様子もなく、まっすぐに近づいてきたという。
慌ててザックを担いで下山し始めたが、クマもその後を追ってくる。後方10メートルほどまで迫ってきた時に、5人は高さ2メートルある岩に飛び乗った。姿勢を低くしながら唸るクマとしばらく睨み合いが続いたが、次の瞬間、5人の間を割るようにクマが飛びかかる。勢い余ったクマはそのまま反対側の斜面を転がり落ち、すぐさま体勢を立て直して再び襲いかかってきた。5人はザックを先に落として30メ-トルほど走り振り返ると、クマは人間を追うことなくザックの中身を漁っていたという。
かろうじて、5人は全員無傷で生還した。果たしてこのクマが、福岡大を襲ったクマと同一かどうかは定かではないが、日時と場所、攻撃性の高さから、そう見てもおかしくはないだろう。