金融教育の必修化と成人年齢引き下げの影響
2022年4月から高校の家庭科授業で「金融教育」が必修になったというニュースも記憶に新しい。
金融庁HPで配布されている資料をみると、家計管理やマネーリテラシーを高める内容であることがうかがえる(「高校向け金融経済教育指導教材の公表について」)。
https://www.fsa.go.jp/news/r3/sonota/20220317/20220317.html
この改定が行われた大きな理由のひとつは、2022年に成人年齢が18歳に引き下げられたことにある。18歳で親の許可なくクレジットカードを作ったりローンを組んだりすることが可能になるため、それに伴うトラブルも予想されるからだ。これも子供向けの「お金の本」が求められる理由のひとつではないかと、森永氏は推測する。
「18歳で大学生になると人間関係の幅が広がります。そこから金銭トラブル、たとえば悪徳商法にひっかかったり、そそのかされて高額なローンを組まされたりしてしまうこともある。これまでは18、19歳は未成年だったので、契約後に取り消すこともできました。それが成人の場合は自己責任になってしまう。それを踏まえて、早いうちからお金に関する知識を身につけておいてほしいと考える親御さんが多いのではないでしょうか」(森永氏)
さらに現代は、親世代が子供の頃に比べて「お金」の使い方も複雑化している。キャッシュレスが当たり前になって現金に触れる機会が減った上に、スマートフォンアプリゲームや動画サイトの「投げ銭」機能で、親の想像を超えた高額な「課金」をしてしまう子供の話をSNSやテレビの情報番組で見かけることも少なくない。
これに関して森永氏は「自分の時代の感覚で子供を頭ごなしに否定するのはよくありません」と言う。
「僕のところにも『ゲーム課金や投げ銭などの無駄遣いをやめさせたい』と相談に来る人は多いのですが、それを『無駄』と思うのは親の価値観ですよね。頭ごなしに否定する前に、ご自身でも一度試してみて、その上で判断してほしいとアドバイスしています。やってみたいのに『ダメ』と言われても、子供は反発するだけですよね」
「もっと早くに知りたかった」という後悔や、自分の子供時代とは環境が違うという戸惑いのほかにも、親たちが子供向けのお金の本を購入する理由が存在する。
「お金のことについて子供から聞かれても、どう説明していいかわからない親御さんは多いと思います。そういった方に支持されているのかなという感触はありますね。我々大人世代はしっかりしたお金の教育をあまり受けてこなかったので、子供に伝えるのがなかなか難しい。そうした場合に役に立つという側面もあるのではと思っています」(立川氏)
実際、こうした子供向けの「お金の本」には、「クラウドファンディング」や「暗号資産」「NFT」など近年話題のトピックスも解説されている。たしかにこれは大人でもなかなかすんなり説明できるものではないだろう。
「昔から『子供向け』の新聞を読んだり、ニュース番組を見たりして学び直す大人はいたはずです。自分自身が執筆する際は、当然ながら子供たちに向けて書いていますが、『小学生から』『10歳から』という触れ込みなら……と手に取る大人の存在もあるのではないでしょうか」(森永氏)
さまざまな知識をアップデートしていくことが必要な令和の社会ではあるが、忙しい現代人はできるだけコスパよくそれを獲得したい。森永氏の『小学生から知っておきたい 使い方 貯め方 増やし方 守り方 マンガでわかる お金の本』の帯には「将来お金に困らない大人になってほしい!」とある。
そして『10歳から知っておきたいお金の心得~大切なのは、稼ぎ方・使い方・考え方 』の帯には「人や仕事に恵まれる大人になる」とある。
ここにはもちろん「子供にこうなってほしい」という親心があるだろうが、「こうなりたい」という大人もまた対象に含まれている気もしてくる。
少なくとも筆者(42歳)は「お金に困らない大人」「人や仕事に恵まれる大人」……になりたい。子供向けの「お金の本」のヒットの背景にも、さまざまな思惑があるのだろう。
取材・文・構成/藤谷千明 編集/斎藤岬 写真/shutterstock