脳を活性化させるなら、非利き手を使ってみる
著名な学者の中にも、私と同様の考えを主張する学者が少数ながら存在します。例えば、全人口の10~12%が左利きであるという常識に異議を唱えたのは、オハイオ州トレド大学の心理学部のスティーブン・クリストマン教授です。
彼は、「違いについて述べるのなら、右利きと左利きではなく、強い片手利きと両手使いの違いに注目すべきだ」と主張しています。
興味のある方は、『左利きは天才? 利き手をめぐる脳と進化の謎』( デイヴィッド・ウォルマン著 日本経済新聞出版)という本も参考になると思います。脳の左右差の問題をこういう切り口から考えた学者は過去にほとんどいないのです。
クリストマン教授は「エディンバラ利き手テスト」で10:0の人、つまりすべての項目において同じほうの手を使う人だけが片手利きであり、それ以外の人はすべて両手使いであると主張しています。私自身も「私たちは単に自分が右利きだと思い込んでいるだけで、実はほとんどの人は両手使いである」と考えています。
これまで述べてきたように、いわゆる右利きの人がお箸を左手で使うとぎこちなく感じるのは、右利きのせいではなく経験の差に過ぎません。
それは親によって「あなたは右利きだからエンピツは右で持つのよ」とか、「あなたは左利きだからボールは左で投げるのよ」と、教え込まれたために、片手使いになった可能性が大きいのです。
この世の中の、圧倒的に右利きが多いという歴史的背景のせいで、何もかもが右利きの人たちに便利につくられている現状が右利きを量産しているのです。これは、少なくとも小学校低学年であれば程度の差こそあれ、どちらの利き手、利き足にも変更がきくという事実を示しています。
図表1ー9に動作の難易度による右手利き頻度の違いを示します。
字を書いたり、絵を描くときに利き手が使われる頻度が高いのですが、ほうきを持ったり、びんのふたをひねるときには左手で行う人も少なくないのです。
難易度の高い、あるいは巧みな動きが要求される動作ほど利き手が使われる頻度が高いことがこの表からよくわかります。
脳の活性化を図りたかったら、普段使い慣れていない反対の手を使うこと。そのぎこちない感覚を楽しんでください。脳内で使われていない領域を活性化させるには、あなたの非利き手、非利き足、非利き耳、非利き目を積極的に使うことがもっとも効果的な方法なのです。