ほとんどの作業で両手を使いこなしている

さらに、利き腕一つを取り上げてみても、私たちの個々の作業を観察することで、ある一つの事実が浮かび上がってきます。
それは、「ほとんどの作業は、利き手だけで行っているわけではない」という事実です。

例えばビール瓶の栓を抜くとき、右利きの人は右手に栓抜きを持つはずです。しかし、左手は何もしていないわけではありません。左手はビール瓶を握って安定させる役目を担っています。つまり両手をうまく調和させて作業することにより、栓を抜くことができるのです。

一度、非利き手に栓抜きを持ってビール瓶を利き手で支えながら栓を抜いてみてください。あなたはどういう感覚を持ちましたか? 多分とても、ぎこちなく感じたはずです。しかし、その動作でもきちんとビール瓶の栓は抜けたはずです。

もしもあなたが毎日晩酌のときにビールを飲むのなら、非利き手で栓を抜いてみましょう。それを少なくとも1週間は続けてみてください。最初感じていたぎこちなさが自然に消えていることに気づくはずです。

また、箸を扱う作業でも、茶碗を持っているのは左手です。板に釘を打ちつけるときでも金槌を持つ手が右手で、釘を支える手は左手です。つまり、私たちは無意識に両手の役割を分担しながら一つの作業を行っているのです。言い換えれば、多かれ、少なかれ、私たちは両方の手を使いながらうまく作業をこなしているのです。つまり脳はそのようにつくられているのです。

極端な言い方をすれば、バッティングを例にとれば、幼児期に左打ちを習えば左打ちが、右打ちを習えば右打ちが、定着するのです。
多分これは多くの人が見過ごしている、あるいは誤解している事実ですが、よくよく考えればバッティングはビール瓶を抜く作業と同じように、両手を使う動作だということです。

このように、私たちが行っている多くの動作は、両手がお互いの役割分担をきっちり果たして、初めて遂行できるのです。メジャーリーガーを見渡してみても、スイッチヒッター( 左打ちと右打ちができるバッター)を探すことはそれほど難しくありません。

さらに野球について考えると、右手投げの外野手は左手にはめたグラブでボールをキャッチします。もしも、この外野手がグラブを逆の手にはめてキャッチボールをしたら、左手での投げにくさだけでなく、グラブをはめた右手でボールをキャッチする際にも違和感を覚えるはずです。
そして次第に右の手のひらが痛くなることに気づくでしょう。なぜかというと、右手は飛んでくるボールの衝撃を和らげる腕の動きをすることに慣れていないためです。