引き続き、雑貨店『hal』 店主・後藤由紀子さんのインタビューをお届けします。
取材は、桜が咲き始めた3月末に行われました。撮影中、お店に1人のお客さんがやって来ます。「子どもが進学で家を離れるので、後藤さんが本で紹介していた、息子さんに持たせた器と同じものが欲しくて買いにきました」。後藤さんの暮らしや考え方に賛同する地元の方やファンの方も多く、『hal』は沼津を代表するショップの一つになりました。
後半では、後藤さんの人生を変えた言葉、健やかな笑顔のもとになっている暮らしのポイント、子どもが巣立った後の夫婦の暮らしについて聞きます。(この記事は全2回の2回目です。前編を読む)
「私なんか」と言うのをやめたら世界が広がった
お店を始めて数年経った頃、後藤さんへの取材や企画の依頼が増えてきました。しかし「私なんかを取材をして誰が見るんだろう」「育児もPTAもあるしお店には週6立たないといけない。余裕がないから」と断っていたそう。その考え方を変える、ある出来事がありました。
「YMOの元マネージャーの日笠雅水さんが手相を見る方なんですが、友人が誕生日プレゼントに日笠さんに見ていただける券をプレゼントしてくれたんです。そこで“あなたは〈私なんか〉っていうのをやめなさい。いろいろやってみると、もっと良くなるわよ”と言われたんです」
それを機に来た依頼はありがたく受けるようになりました。最初に表紙を飾ったのが雑誌『ナチュリラ』、書籍1冊目も『ナチュリラ』別冊でした。それを見て、全国から『hal』にたくさんのお客さんが訪れるようになりました。
「日笠さんに最初に見ていただいた時に“あなた、物を作るようになるわよ”と言われたんです。選ぶのは好きだけど作るのはちょっと……と思っていたんですけど、その後、コラボして服とかバッグとかを作るようになるんです。言われた通りになるから、本当に不思議ですよね!」
本を作るとき「編集者にお任せ」する理由
“私なんかをやめる”“何でもやってみる”ことで、後藤さんの人生は変わりました。ふだん本を出版する時も、企画については編者者にお任せ。「こんなことを紹介してどうするんだろう」「私なんかの当たり前が記事になるとは思えない」と思っても、編集者がうまく切り取り、読者に届くように仕上げてくれるからだと言います。
「『毎日続くお母さん仕事 おおまか、おおらか、だいたいでやってます』(SBクリエイティブ)で紹介している『きんぴらごぼう』のレシピは、ごぼうをささがきせず、縦半分に切った後、斜め薄切りにしてるんです。それは私が不器用で、上手にささがきができないだけなのですが(笑)読者さんからは“丁寧に紹介してくれてよかった”“参考になった”と感想をいただきました。これも編集者さんのおかげ。プロが一番よく分かっているので、基本はお任せしているんです」
唯一気をつけているのは、良く書かれ過ぎている時。その時は、しっかり赤字を入れ修正して、等身大の自分が伝わるように気をつけているそうです
「素敵って言われるほど、素敵じゃないんですよ。赤字を入れて戻すと、編集者の一田(憲子)さんは“そう書くと喜んでくれる人が多いのに。後藤さんは変わってるよね”なんて言ってくれるんですけど、嘘をついてしまうと実際にお会いした時に“違ってるな”と思われ後始末するのは私なので、後々面倒臭くならないようありのままをお伝えしています。
『hal』が私のお店だし、私が一番くつろげる場所だから大切にしたいのもあります。ふだんスーパーでは、2割引のシールがついた豚肉も買いますよ(笑)。スーパーでうっかりお客さんに会って、“今日の晩ごはんは何ですか?”と、かごの中を覗き込まれても大丈夫。“まだ2、3パック売ってましたよ”って、教えてあげちゃいます(笑)」
子ども二人は独立し、現在は夫と二人暮らし
後藤さんの愛らしいしゃべり方と穏やかな人柄。飾らない性格や等身大の暮らしぶりに惹かれる人は多いと思います。そんな後藤さんのウェルネスのポイントは、基本の生活。きちんと食べて寝ること、休むこと。1日の仕事が終わり、家に着いたらお風呂に入って、お酒を飲んで緩めます。特に、撮影やイベントがある時は心も体もフル稼働で力が入りすぎているので、翌日はしっかり休んでクールダウンさせるそう。自分を労い、しっかり甘やかすこと。それは夫に対しても同じです。
「夫は庭師をやっているので、“今日も暑かったよね、お疲れ様”“寒かったでしょ、大変だったね”と労いの言葉をかけます。人を甘やかしてあげると、自分も甘やかしてもらえる。“自分のやることが鏡になる、返って来る”と気づいたんです」
長男と長女は、それぞれ一人暮らしを始め、現在は夫と二人暮らし。夫婦だけの暮らしになった今こそ、相手を思いやり、労うようになったと言います。