懲役中に食べたいと思っていた
中澤さんのもとには、Bさんのように直接保護司として関わりがなくても、カレー会や地元の繋がりを通して多くの不良少年が集まってきていた。
そしていつしか、中澤さんが少年たちにふるまっていたカレーは「更生カレー」と呼ばれるようになる。
Bさんが続ける。
「この辺の伝説的な不良の先輩から、中澤さんに迷惑かけんな、中澤さんを泣かすんじゃねえぞ、って言われていました。
仮に言われなくても、自分らが世話してもらってる先輩を世話してくれてる中澤さんには、自主的に迷惑はかけないようにって思っていました。ガキの頃のそういう思いもあって更生カレーって呼ばれてるのかもしれないですね」(Bさん)
もちろん食べた人間が全員更生する魔法のカレーではない。だが、「更生カレー」には人と人を繋ぐ何かが存在するのかもしれない。
Bさんが、「自分、懲役中に夢ができたんです。中にいる間、色々勉強して資格もとったので、これからお金を貯めて起業したいんです。懲役中にも更生カレーを思い出して、食べたいと思ってましたね」と言えば、中澤さんは「中でテレビなんか見るヒマないってくらい勉強してきたんだね。中での生活を無駄にしなかった。これからよねぇ、記者さん、この子すごいんだから。この子の頭脳がどうなってるのか見てみたいわ」とまるでわが子を自慢する母親のように話していた。
世間では、特にネット上では一度道を踏み外した人間に対しては石を投げつけてもいいというような風潮がある。
中澤さんはその逆ですべての事柄を肯定的に受け取る。そこに伝説の保護司と呼ばれた秘密があるのだろうか。
後編では中澤さんの経歴や保護司時代を振り返ってもらい、その素顔に迫っていく。
小林幸子のマネージャーを務めていたことも、中澤さんの驚きの半生はこちらから
取材・文・写真/集英社オンラインユース班