難民が増えている今だからこそ見てほしい

撮影は、2021年5~6月に日本で敢行。仕上げ作業は、その後、2ヶ月かけてフランスで行われた。

「大事にしたのは、観客が自分事として見られるようにすることでした。そのためにキャスト、スタッフとの対話を大事にして、いろんな視点からの意見を採り入れるようにしました。ただ、私自身、言葉があいまいになってしまうこともあって……。『わからない』と直接言われなくても、顔で分かるんですよね(笑)。でも、フランス人はダイレクト。『あなたは間違ってる』と、はっきり言われたこともありました」

完成した映画は、今年2月の第72回ベルリン国際映画祭にて「アムネスティ国際映画賞」の特別表彰に輝いた。アムネスティ・インターナショナルは、世界最大の国際人権NGOだ。

「アムネスティの方から、『これはどの国でも起こっている問題。今後、もっと世界で上映できる機会をつくりたい』と言ってもらえて、うれしかったです。

その後に起きたのが、ロシアのウクライナ侵攻でした。今、日本はウクライナの方々を『避難民』として受け入れていますが、『難民』とは言っていない。『難民』と言うと、永住が前提になるからだと思うんですけど。でも、戦争はどれほど続くかわからない。日本語教育を受けたい人がきちんと受けられるようにしたり、その先の就労支援なども拡充されなければいけないと思います」

気鋭の新人監督が描く在日難民の今。「ショックという言葉では言い表せない現状は、悪意ではなく無関心がつくる」_8
気鋭の新人監督が描く在日難民の今。「ショックという言葉では言い表せない現状は、悪意ではなく無関心がつくる」_9

1枚のクルド人女性の写真から、構想7年でつくり上げたデビュー作。その裏には、是枝監督のさまざまなサポートがあったという。

「企画段階から関わっていただいて、脚本を何度も読んでアドバイスをくださったり、編集の途中段階でも見ていただいたり。ベルリンに出品が決まったときは、『世界に届くものになって良かったね』と言っていただきました。

見てくださる方には、この主人公や家族にどうなってほしいと思ったかという、その気持ちを忘れないで胸に持っていてほしいなと思います。そして、彼女や彼らはすぐ近くにいるので、いないことにしないでほしい。今の状況をつくっているのは、誰かの悪意ではなく、きっとみんなの無関心。この映画が、無関心から関心に変わるきっかけになればうれしいです」

気鋭の新人監督が描く在日難民の今。「ショックという言葉では言い表せない現状は、悪意ではなく無関心がつくる」_10

取材・文/泊 貴洋
撮影/江森康之
場面写真/©2022「マイスモールランド」製作委員会

『マイスモールランド』(2022)
監督・脚本/川和田恵真
出演/嵐莉菜、奥平大兼、平泉成 ほか
配給/バンダイナムコアーツ

クルド人の家族とともに生まれた地を離れ、幼い頃から埼玉で育った17歳のサーリャ。すこし前までは同世代の日本人と変わらない、ごく普通の高校生活を送っていた。しかし在留資格を失った今、バイトすることも、進学することも、埼玉を越え、東京にいる友人に会うことさえできない。彼女が日本に居たいと望むことは“罪”なのだろうか―?

5月6日(金)新宿ピカデリーほか全国公開
公式HPはこちら https://mysmallland.jp/