気鋭の新人監督が描く在日難民の今。「ショックという言葉では言い表せない現状は、悪意ではなく無関心がつくる」_4

ショックという言葉では言い表せない現実

日本の難民認定制度は、1982年に開始。しかし2021年までに認定されたのは、85479人の申請者に対して841人のみだ。平均4年がかりで難民申請を行い、不認定となってしまうと、「外国人仮放免者」となる。すると就労ビザがないため働くことも許されず、健康保険なども適用されなくなる。それでは生きていけないと内緒で働くと、入管(出入国在留管理庁)の施設に収容され、出られなくなってしまう。

「実際に家族が収容されている人たちがいて、ショックという言葉では言い表せないくらい衝撃的でした。でも、自分もそんな社会をつくっている一員。どうしてこうなってしまうんだろうと思うと同時に、入管法(出入国管理及び難民認定法)の問題点を感じました。

取材で目に焼き付いたのは、日本で育った(クルド人の)子どもたちの姿です。家事をして、弟妹の面倒も見て、日本語が話せない親戚たちに雑事を頼まれるという、ヤングケアラーの状態。大きくなって就職が決まっても、仮放免になって取り消しになったとか、行きたい大学があったけど行けなくなったとか、そんな子たちがいっぱいいました。

未来を思い描きたいのに、進みたい道ではない道を選ばなければいけない。周りの日本人と比べて、『どうして自分だけが?』と複雑だろうと思いました」

気鋭の新人監督が描く在日難民の今。「ショックという言葉では言い表せない現状は、悪意ではなく無関心がつくる」_5

こうして約2年に渡って取材を重ねて、脚本を執筆。自身が感じてきたミックスルーツゆえのアイデンティティの揺れや、淡い恋なども盛り込んだ。

主人公サーリャのキャスティングでは、自身と同じミックスルーツを持つ人々に声を掛けて、オーディションを行った。そして選んだのは、5カ国のルーツを持ち、『ViVi』専属モデルとして活躍する嵐莉菜。また、サーリャが恋心を抱く日本人青年の聡太には、映画『MOTHER マザー』(2020年)で日本アカデミー賞新人俳優賞に輝いた奥平大兼を起用した。

「嵐さんで印象的だったのは、『自分を何人だと思いますか?』とセンシティブな質問したときに、『日本人だと言いたいけれど、言っていいのかわからない』と笑顔で答えたときの表情。複雑な感情が、今のクルドの子たちや、私にも通ずるところがあると感じました。

奥平さんは、『外国人の友達はいますか?』と質問したときに、『外国人だから、何なんですか?』という反応をされて(笑)。分け隔てのないフラットな目を持っているので、サーリャに対して『可哀想』と寄り添うのではなく、等身大でまっすぐ見つめる聡太を演じてもらえるんじゃないかと思いました」

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