本作をラストシーズンとして解体される劇場

④ 親子、多様性……深彫りされるテーマ

その菊之助と菊五郎の例を出すまでもなく、歌舞伎は親子関係が色濃く影響を及ぼす芸能でもあります。そして、『FFX』もまた、ティーダ(菊之助)とその父ジェクト(坂東彌十郎)という親子の物語を軸に展開していきます。どこまで計算されていたかは不明ですが、彌十郎が昨年、『鎌倉殿の13人』の「時政パパ」としてブレイクしたことも不思議な巡り合わせです。

『FFX歌舞伎』では、劇中に登場する複数の親子関係において、原作以上の陰影がつけられます。また、人間族、ロンゾ族、グアド族、アルベド族など、さまざまな人種の共存のあり方についても、テーマとして深彫りがされます。

⑤ 厄災の時代と向き合う現代性

私たち観客を聴衆に見立てての「いなくなってしまった人たちのこと、時々でいいから、思い出してください」というユウナのセリフは、コロナ禍など厄災の時代を生きる私たちへのメッセージとして響いてきます。また、異界送りや、ラストバトルでの義太夫、長唄とともに獅子が舞う所作事(踊り)には、伝統芸能が内包する「鎮魂」のチカラを感じずにはいられません。

ふり返れば、コロナ禍まっただ中の2020年3月、国立劇場で予定されていた菊之助一座の『義経千本桜』は全公演中止となり、完全無観客のもと、ただ一度の配信公演が行われました。大物浦と呼ばれる場面で、菊之助演じる平家の敗将・平知盛は、碇を身体に巻き付けると「さらば!」と叫び、海へと身を投げます。本来なら盛大な拍手が起こる場面も、無観客ゆえ、無音の間となりました。菊之助は、まるでエアポケットに吸い込まれてしまったようでした。

その直後からのステイホーム期間、『FFX』をプレイしながら、菊之助はなにを思ったのでしょうか。

2017年に開場したステアラですが、本作をラストシーズンとして解体されることが決まっています。もとは2020年解体の予定でしたが、コロナ禍によって延長され、このタイミングとなったそうです。

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まもなく解体されるIHIステージアラウンド東京

『FFX歌舞伎』の劇中、菊之助が演じるティーダの故郷ザナルカンドは、華やかで眠らない街です。ですが、それは誰かの夢として召喚された街であり、夢見なければなにも存在しないのです。

役者も、舞台芸術も、似たようなものかもしれません。コロナ禍を越え、まもなく解体されるステアラで『FFX歌舞伎』が見られるのはあと数回。まだ間に合います。

まだ間に合う! 『新作歌舞伎 ファイナルファンタジーX』を絶対に観るべき5つの理由_5
正午より9時間の旅を終えると夜になっていた。
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文・写真/九龍ジョー