SNSの運営会社は問題解決に取り組まない
勉強の得意な子は良い成績を取り、サッカーの得意な子は部活動で活躍し、音楽が得意な子はバンド活動をし、物作りが得意な子は学芸会で発表するなど、それぞれの形で承認欲求を満たしてきた。バイトやオシャレでそれをしてきた子たちもいるだろう。
しかし、最近は「ブラック部活」「文化祭不要論」「生徒同士を競争させてはダメ」「学校へ行かなくていい」「管理教育」といった風潮の中で、だんだんとそうした活動自体が狭められる傾向があるという。
さらに新型コロナウイルスの感染拡大によって、生徒たちの勉強以外の活動が大幅に減ることになった。そうしたことが、承認欲求の満たされない子供の増加を促進しているのではないかというのだ。
そこにSNSという手軽で中毒性の高いツールが入ってくれば、暴走してしまう若者が出てくるのも仕方のないことなのかもしれない。先の教員は言う。
「学校内の非行であれば、私たち教員が介入できます。しかし、学校の外でのSNS使用となると手に負えません。よほど大きな話題にならなければ、警察が動くこともないでしょう。子供たちの暴走を止めにくい状況になっているのです」
これも拙著で深く掘り下げたが、SNSの運営会社がこの問題解決に積極的に乗り出すことはありえない。そもそも彼らのビジネスそのものが人々の承認欲求を刺激することによって成り立っているからだ。
大半の人たちがSNSをうまく使っているのは事実として、問題はそうできない一部の困難な人たちが間違った方向へ進んでしまっている現状だ。学校の教員たちが、当事者に注意をするだけでは、なかなか負の連鎖を止めることはできない。
最後に教員はこう語った。
「教員として目指すのは、なるべく学校の中に生徒の承認欲求を満たす機会を作ってあげることです。授業や行事などのやりがいだとかいったものです。でも、教員個人がいくらがんばっても、SNSが生み出す満足度には到底かなわない。そこがすごく悔しいところです」
こうした思いは、本気で子供と向き合っている教員であればあるほど、強く抱いているだろう。コロナ禍以降の新しい社会を構築しようと考える時、これは私たちにとって目を向けなければならない問題の一つといえるだろう。
取材・文/石井光太