ロールモデルになりえない上司・先輩

前述したように、大手企業における大卒新卒の早期離職率は近年、決して下がってはおらずむしろ上がっていた。そしてその原因はキャリア不安が高まるなか、それを放置せざるをえない組織側にある。

ただ、若手のキャリア不安を現場の管理職層がマネジメントできないことの原因は、管理職層のマネジメントスキルを上げられないからだ等という単純な話ではない。

そもそも、上司が若手のロールモデルになりえないという構造的問題に一因があるためだ。本書でもたびたび例に出しているが、今の40、50歳代の大手企業管理職層の新入社員時代の職場環境と、現代の「ゆるい職場」では笑ってしまうほどの違いがある。

管理職層の新入社員時代の話を聞いても、「また武勇伝か」くらいにしか感じられない若手のことを誰が責めることができようか。

事業部対抗野球大会があり、日曜日に練習をし、「遊びじゃねーんだよ! これで仕事を学ぶんだよ! と真剣に怒られた」(大手総合電機メーカー、50代)といった話を聞いた若手が、おとぎ話の類だと感じることを誰が否定できようか。

当時と今とでは職場環境が違いすぎ、その若手時代の成長過程をストレートに参考とすることはほとんど不可能だろう。

さらに、企業との関係性を短期的なものとして考える若手にとっては、その会社一筋で出世してきた人の多い大手企業の管理職層は自分の職業人生のモデルとはなりづらい。

実際に新入社員に「ロールモデル」の話を聞くと、驚くほどにみな、数年程度年上、特に2,3年上の社員の話をする。会社の採用パンフレットでもエース級と目される部長や課長のキャリアパスも掲載している企業が多いが、実はあまり読まれていないのだ。

最後に、ライフスタイルの考え方の違いも大きい。先述の調査で若手に「プライベートを大事に生活したい」か「仕事をメインに生活したい」か問うたところ、前者が68.7%と3人に2人以上であった。

現代では性別に関わらず、仕事は人生の一部分に過ぎないという認識は若手の普遍的な価値観となっており、「黙って職場の上司のやり方についていこう」とはならない。

育つ環境が違いすぎ、2,3年上をモデルとし、ライフスタイルの考え方も違う。もはや上司・先輩は、若手のロールモデルにはなりえないのだ。


文/古屋星斗

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