温泉浴で汗をかくのは強い運動をしているのと同じ
――温泉地では、温泉の入り方の注意が掲示されていますね。長湯をしない、お酒を飲んで入らない、1日目の入浴は2回までに、などの記述を見かけます。
梶本医師:その注意のとおりに、無理をしない入浴をすることが、疲れを軽減する旅のポイントのひとつです。旅行で気持ちが高ぶると、実際には疲れているのに脳が元気だと錯覚します。そして、「せっかくの温泉だから」と、熱い湯に肩までつかる、長湯、くり返し湯をしがちでしょう。
疲労が蓄積すると、全身の組織や血液中に疲労因子「FF(Fatigue Factor)」(Fatigue・ファティーグは「疲労」の意味)というタンパク質が増えることがわかっています。また、これに対抗するように、疲労回復因子(FR:Fatigue Recovery Factor)も出現します。
我々の研究チームで、「42度の熱いお湯で半身浴を8分間」した後、「肩までつかる全身浴を8分間」行い、疲労因子FFと、疲労回復因子FRの分泌量を調べる実験を行いました(図参照)。その結果、半身浴でも全身浴でもFFは右肩上がりで増え続けました。一方でFRはというと、全身浴では増えませんでしたが、半身浴では右肩上がりに増えるという結果を得ました。
つまり、42度以上の熱い湯につかると疲れるだけということ、全身浴よりも半身浴のほうが疲労回復になることが判明しています。
全身浴では心臓や血管に負荷が強くかかることも明らかで、強い運動をしているのと同じです。すると自律神経は心拍や血圧を平常時に保とうとフル稼働をするので、自律神経の中枢がある脳は疲れるのです。
――確かに調子に乗って1日に何度も温泉に入り、めまいがして吐いたことがあります。
梶本医師:めまい、おう吐、のぼせは、ほかの病気がないなら、「これ以上疲れると危険ですよ」と脳が発するサインです。自律神経が心身の状態を調整しきれずに、バランスを崩した状態ですね。体調に異変を感じたらすぐに安静にしましょう。