大林宣彦監督の映画への尽きぬ想い

『海辺の映画館−キネマの玉手箱』(2020) 上映時間:2時間59分/日本

2020年4月に惜しくも亡くなった大林宣彦監督の遺作『海辺の映画館−キネマの玉手箱』(2020)もまた、映画館への愛に満ち溢れた作品。

尾道3部作を始めとした故郷・尾道への愛、そして映画への愛に満ちた作品を作り続けてきた大林監督が、人生最後の舞台として選んだのは、尾道の映画館だった。

海辺にある架空の映画館で戦争映画を見ていた、戦争を知らない世代の3人の青年たちが、スクリーンの中の世界へとタイムスリップしてしまう。『カイロの紫のバラ』とはちょうど真逆の設定だ。

映画内世界へ迷い込んだ青年たちが、明治維新から第二次世界大戦まで、さまざまな戦争に巻き込まれて犠牲となるヒロインたちを救おうと奮戦するのだが、そのヒロインを過去の大林作品の主演を務めた女優がそれぞれに演じていく。

そして、映画の最後で最も重要な役割を担うことになるのが、現実世界の海辺の映画館でもぎりを務める老婆(白石加代子)。

さまざまな俳優、あるいは映画人らが入れ替わり立ち替わり現れる点で、まさに大林監督の集大成なのだが、傑作なのは、小津安二郎監督と山中貞雄監督を、それぞれ手塚眞監督と犬童一心監督が演じていること(ワンカットだけだから、うっかりしていると見逃してしまう!)。

スクリーンの中の世界と外の世界を行き来するという空想が成立するのは、やはりタブレットやスマホの小さな画面ではなく、映画館の大スクリーンだからこそなのだ、と改めて気づかせてくれる、大林監督から最後の贈り物だった。

文/谷川建司