ゴールのないマラソンをゴールする瞬間
5月21日、大田区総合体育館で1月16日の仙台サンプラザ大会以来、4か月ぶりの復帰戦を行った。試合は、丸藤、小島聡と組んで潮崎豪、清宮、田中との6人タッグマッチだった。試合はパートナーの小島が潮崎に敗れたが、明らかに武藤の動きは精彩を欠いていた。深刻な表情でバックステージに現れると、一気に切り出した。
「非常に悩んでいるな。正直さ、相手の技を受けるんじゃなくて自分の技を仕掛ける時に痛みが走ったりするからよ。やっぱり気持ちが……気持ちが落ちるよ。近々に報告することがあります。以上」
一切の質問を受け付けず控室へ消えた。大田区大会後にノアは、6・12さいたまスーパーアリーナのリング上で武藤自身が「報告」の中身を明かすことを発表した。一体、何を発表するのか。様々な憶測と想像がささやかれる中で迎えたさいたまスーパーアリーナだった。
第8試合が終了した会場にテーマソング『HOLD OUT』が流れた。ノアのジャージに白と黒のキャップをかぶった武藤は長い花道を胸を張って入場した。リングインすると真ん中で「プロレスLOVEポーズ」を決め、ロープを背に2度、弾むように感触を味わった。拍手に包まれる中、マイクを握った。
「武藤です。さいたまスーパーアリーナ多数、ご来場ありがとうございます。かつてプロレスとはゴールのないマラソンと言った自分ですが、ゴールすることに決めました」
報告の正体を察知した客席からどよめきが起こる。ファンの戸惑いを切り裂くように決定的な2文字を口にした。
「来年の春までには引退します。あと数試合はするつもりです。最後までご支援よろしくお願いします」
ファンに「引退」を報告すると真正面へ一礼し、再び『HOLD OUT』が鳴り響くなかリングを後にした。
取材・文/福留崇広(スポーツ報知記者)