キャプテン喜田拓也の言葉には
クラブの在り方が示されている

温故知新――。過去を眺めることで、今の姿が見えてくる。

F・マリノスという1クラブの歴史を振り返る内容ではあるものの、登場人物のインタビューを通じてクラブとは、チームとはどうあるべきかを考えさせられた。

キャプテン喜田拓也の言葉が実に印象的だった。

「〝F・マリノスはいいチームだね〟〝魅力的なサッカーをやってるよね〟などと言われることが本当にいろんな場面で増えました。まわりの見る目が変わってきたという事実が紛れもなくある。それは、このクラブに関わるすべての人の根気強さによるものだと思うんです。

ただクラブが変わり切るには、僕らだけの力じゃ絶対に無理だし、ファン・サポーターの方の力を借りないと、変わり切れないことってたくさんある。共感してくれて、共鳴してくれて、一緒に変わっていこうという姿勢を示していただいたのは本当に幸せで、ありがたいこと。

選手同士でたくさん話をして、クラブの人たちも一緒に頑張ってきて、そこにファン・サポーターの愛が重なる。こういう形で歩み始めているので、僕らとしてはしっかり結果で証明したいなって強く思うことができました」

ポステコグルーが指揮を執った1年目の2018シーズンはいくら得点を重ねようともハイラインの裏を突かれた失点が多く、下位に低迷して残留争いに身を置いた。それでもスタンドからブーイングは飛ばず、変革を後押しする声援がチームに注がれた。もし猛烈な拒否反応が示されたら、「変わり切る」ことはできただろうか。

アタッキングフットボールに対する可能性と、紆余曲折ある歴史と、そしてクラブに対する愛が絡み合って、その根気強さがもたらされたのだと感じ取ることができた。周囲の支えなくして、信念を持って邁進することはできない。長く、曲がりくねった道を進んできたからこそF・マリノスはスタイルの確立に至ったとも言える。

今シーズンに向けた宮崎キャンプを終えた後、クラブOBである栗原勇蔵クラブシップ・キャプテンがこう語っていた。

「サイドバックに複数のケガ人が出たため、練習試合で大学生が出てくれたんです。ボランチの位置に行ってビルドアップに加わったりして、〝F・マリノスのサイドバックはこうやればいいんでしょ〟っていうイメージをちゃんと持ってプレーしてくれていました。ちょっと驚きだったけど、マリノスのスタイルが広く知れ渡ってきたんだなという実感を持つことができました」

F・マリノスのスタイル=アタッキングフットボール。結果が伴っていることもあって身内にとどまらず、それは対外的にも浸透してきているのが今だ。