詩の「連鎖」と作中詩に込めた願い

ーー続く第二話「夜更けのラテ欄」の主人公は、大学三年生の千紗子。文化祭の実行委員をするなど活発な彼女は、高校生の頃から詩を書いているんですが、そのことは周囲にひた隠しにしています。

岩井 第一話の悠平とは全く違うタイプにしたいなと思った時に、いろんな意味で満たされていそうに見えるリア充大学生なんだけれども、実は深い懊悩を抱えているという人物像が浮かびました。

詩人の初期衝動と小説家の使命感――『生者のポエトリー』岩井圭也_1

ーー目下の悩みの種は、恋人の祥吾です。彼は「ポエムとか、キモくね?」と、詩をバカにする。なぜか日本に蔓延している、詩(ポエム)に対するネガティブな風潮が、祥吾の言動に象徴されているのではないでしょうか。

岩井 詩をバカにしたり、詩を詠(よ)むことは恥ずかしいことだよねとされる今の日本の風潮は取り上げたいと思いましたし、違和感を表明したかった。この小説を書くにあたり、いくつかポエトリーリーディングのライブに行って肌身で感じたのは、詩を詠むって決して恥ずかしいことではない。めちゃくちゃカッコいいことなんですよ。そして、ズルいなぁと。

ーーズルい?

岩井 ある日のライブに「オープンマイク」という一般参加型のコーナーが組み込まれていて、バンドの演奏をバックに会場のお客さんが飛び込みでポエトリーを披露していくんです。勢いに任せて日頃の鬱憤をぶちまけ続ける人がいたり、事前にちゃんとノートにしたためてきた反戦メッセージのような詩を朗々と読み上げる人がいたり、皆さん、もうほんとにフリースタイルというか、巧拙を超えた十人十色のパフォーマンスを繰り広げていて。それを観ながら、ズルいなぁ、いいなぁ、自分もやってみたいなぁ、と。誰かが詩を朗読している姿を見ることは、自分も同じことをやってみたいと思う一番の起爆剤になる。現場で得たそんな実感が、二話目以降を連作化していくうえでの礎になりました。

詩人の初期衝動と小説家の使命感――『生者のポエトリー』岩井圭也_2

ーー第一話の主人公・悠平が初めて詩を朗読した現場に、千紗子はたまたま居合わせていたんですよね。〈あの時抱いた高揚感と敗北感は、まだ尾を引いている〉。その感触が、千紗子がのちに意外な選択をする遠因となっていく。第一話の悠平が言うところの「無限に続く詩の連鎖」が具現化したかたちです。そして、その「連鎖」は第三話以降も続いていく。

岩井 第三話(「最初から行き止まりだった」)はポエトリーリーディングの親戚とも言える、ラップを取り上げてみたいというところから構想を始めました。『フリースタイルダンジョン』も好きで観ていましたし、何より磯部涼さんの『ルポ 川崎』を読んだ衝撃が大きかったんです。あの本の中に出てくる川崎出身のヒップホップ・クルー「BAD HOP」のメンバーたちは、もともと地元で有名な不良少年です。でも、暴力や犯罪によって自分の存在を認知させるのではなく、ラップで自分を表現する方法を見つけ、そこから身一つ、言葉一つ、才覚一つで現状を打破して成り上がっていった。そうした現実を背景に、刑務所から出てきたばかりのラッパー・拓斗の物語を書いていきました。内容的に暗かったぶん、終盤ではより反動を付けられたんじゃないかなと思っています。

ーー比喩表現などはほぼ使わず、自分が陥った現実をダイレクトに反映した拓斗のラップ(詩)がリアルでした。全六話はいずれも終盤で、主人公の自作詩が作中に現れる構成を取っています。作中詩のクオリティが担保されていなければ、物語は瓦解してしまう。詩と物語は、どちらを先に考えていったのでしょうか。

岩井 毎回、物語が先でした。詩としてのクオリティはもちろん重要ですし、高めなければいけないところではあるんですけれども、今回私に求められていたのは、詩人としての詩ではないんですよね。あくまでも主人公たちが自分の心情を吐露するための詩なので、まずは物語を通してどれくらい心情が丁寧に描けるか。その上で、うまいへたではなく、それぞれが感じていることを詩でどう表現するかが一番大事だと思っていました。

ーー客観的な判断をすれば、拙(つたな)い出来なのかもしれない。でも、決して恥じたりすべきものではないし、何より「自分の詩が好きだ!」と。主人公たちによるこうした主観の獲得が、朗読パートの爆発力を導いているように感じました。

岩井 自分自身のことをそこまで愛せる人間ではなかった人たちが、たとえ周囲からどんなにネガティブなことを言われたとしても、「でも自分は、自分の詩が好きなんです」と言い切れるようになる。その時点で、詩を書いた目的を100%達成していると言ってもいいと思うんです。そこもまた、ポエトリーリーディングのライブを観ながら私自身、勝手に想像したり実感していったところでした。ズルいしうらやましいし、「みんなめちゃめちゃカッコいいよ!」と(笑)。