――今日初めてユナイテッドジムに伺いましたが駅直結でアクセスがよく、綺麗で清潔なジムですね。
中村K太郎(以下、K太郎) 去年の7月21日から始まって、おかげさまでちょうど1年になります。綺麗じゃないと特に女性は入りづらくなっちゃうと思うし、別に男性も「汚いのがいい」っていう人はいないと思うので(笑)。
杉山しずか(以下、杉山) たしかに、綺麗だから嫌って人はいないですよね(笑)。
RIZIN、UFCで活躍の現役最強格闘家夫婦の1年目のジム経営
UFC、RIZIN、DEEPなど総合格闘技の世界で活躍する格闘家の中村K太郎と杉山しずか。現役最強の格闘家夫婦と呼び声高い二人がコロナ禍で日本初のadidas MARTIAL ARTS公認ジム・ユナイテッドジム東京(UNITED GYM TOKYO)を2021年7月にオープンした。オープンから1年足らずで系列店ができるなど、会員数も順調に伸ばしている。二人のジム経営1年目とユナイテッドジムについて話を訊いてみた。
クラウドファンディングで得たお金よりも大切なもの

――ジムオープンにあたってはクラウドファンディングで支援を呼びかけ、目標300万円のところ447万円と約1.5倍の金額に達して終了しました。
K太郎 「やるなら人に頼るな、自分の資金でやれ」みたいに批判的な人もいて、そういう否定的な意見も分からなくはないです。けど、応援したい人がそう思ってやってくれることだと思うので、批判的な意見は別にそんなに気にならないし、むしろすごくありがたいとしか思わないです。
杉山 逆にそうやって批判的なことを言ってくれたことでいろんな人が見てくれたので、構ってくれたのをありがたく思った感じです。クラファンに関しては、お金の面以上にこんなにたくさんの方が応援してくださっているんだと知って驚きました。本当にクラファンで助けてもらえなかったらできなかったです。
K太郎 ここのテナントはもともと居酒屋で、改装するのに1,000万円以上掛かりました。もし支援がなければ、ちょっと妥協したり、諦めたりした部分があったんじゃないかと思います。
杉山 金額的にも本当に助かることはあったんですけど、応援してもらえることで毎日ジムの立ち上げという仕事に向き合えるという精神的な支援にもなったと思います。
格闘技は「怖い」ではなく、「楽しい」というイメ-ジに…
――お二人でジムを持つにあたり、どんな場所にしたいと思っていたのでしょうか。
杉山 私は海外のジムへ出稽古に行った時、言語に関係なく楽しく過ごせた経験がすごく心に残っています。人種が違う、仕事が違う、ジェンダーが違う、まったく共通点のないような人たちがジムで一緒に汗を流して、休みの日は遊んだり、出かけたり、帰りは車で送ってくれたり。
普通に電車で隣に座っていると知り合うこともなかったようなおじさんが、ジムに来ると同じ目線で楽しめるのはすごく素敵なことですよね。本当にありがたいなって思っていました。
(ユナイテッドジムでも)私が経験したことと同じように感じてくれる人たちが増えたら嬉しいなと思っています。

――格闘技は気持ちをぶつけ合って、逆に人と人との距離を近づけてくれるところがありますね。
杉山 練習中に(技を乱暴に)グッとやってくる人は「こいつ嫌な奴だな」とか分かりやすいですし(笑)、そういう人間性が出るのも面白いです。
K太郎 最初はとにかくある程度、会員を増やさないといけなかったんですけど、何の縁もなく入ってきた人にも楽しんでもらえるところになればいいなと思ってました。
「怖い」みたいなイメージにならないように楽しくやれる人が増えれば、さらに人が増えていくことにも繋がると思ったし、そこからプロの選手を輩出したり、どこかのチャンピオンになるような人が出ればいいかなという感じです。まだまだこれからですけど。

――格闘技に抱かれがちな“怖い”というイメージを持たれないよう配慮があるのですね。
K太郎 奥さんは可愛い系ですけど、僕も宮澤(元樹、K太郎と苦楽をともにしてきたユナイテッドジム東京のインストラクター)さんも大柄で強面なので(笑)。
柔術クラスは軽量級の爽やかで最先端の技術を教えられる人に来てもらったり、怖い雰囲気にならないようにしています。
女性が盛り上がっていると雰囲気がよくなる
――だいぶ一般的になったとはいえ、格闘技に対してはまだ尻込みする人が多いのが現状だと思います。
K太郎 ジムに来る人たちは最初はみんな全員緊張していますけど、それは会員さん同士がお互いのキャラクターを知らないっていうこともあると思います。
例えば、柔道をやっていて体のゴツい会員の方が、まわりがドン引きするくらい威嚇みたいに足払いを連続でやるアップをしていることがありました。本人はいたって真面目にやってるので、本当に天然で(笑)。

――それは怖いですね(笑)。
K太郎 でも、怖い人じゃなくて天然な人なんだってわかれば、今はみんなも普通に喋ったり、イジったりするようになりました。僕らも最初は緊張していますし、入りたてはみんなそういう感じだと思います。
杉山 「RIZINやYouTubeを見てました」って来てくれる人が多いんですけど、そうじゃない人もたくさんいて、ただジムの前を通って興味を持ってくれて、「動きたくて来ました」「見たこともありません」っていう人が来てくれると、それもまた嬉しいです。“よく来てくれましたね”って思います(笑)。
ドアを開けることに抵抗もあったでしょうに、だからこれからもたくさんある選択肢の中から選んでもらえるようにしていきたいと思います。

――ジムの男女比はどれぐらいになりますか?
K太郎 女性が20%を切るぐらいで、他のジムと同じぐらいじゃないかと思います。キック専門のジムは女性が多いかもしれませんが。
杉山 女性の方が格闘技を知らないし、見たことないって方が多い気がします。
K太郎 男性より見る機会がないですもんね。だからかえって気楽に来てる感じもします。
杉山 K太郎さんがジムを作る時に「女子更衣室は広めに作って綺麗にしよう」って言ってくれて。やっぱり女性が盛り上がってるとジムの雰囲気も明るくなるし、そういうのは配慮していこうって話してました。
ジムには女性専用クラスもありますが、私は「女性は男女問わず誰と練習しても楽しいよ」って当初は言っていました。だけど、K太郎さんと宮澤さんは「レディースクラスは絶対あった方がいい」って言って、オープン当初から今も続けています。これからも女性会員の方はしっかり盛り上げていきたいと思っています。
格闘技を通して楽しい人生に
――会員さんはどんな方が多いですか?
K太郎 30~40代ぐらいで、30代の人が一番多いですかね。もっと年配の方もいるので年齢問わず大丈夫ですし、1年やってきて細かい怪我はあっても大きな怪我はありません。

杉山 ここで仲良くなって一緒に家でRIZINを観たとか、THE MATCHを観て次の日それを2人でジムで真似したり、老若男女、とまではいかないですけど、年齢的にもあまり交わるはずのなかった人たちが仲良くなって冗談を言い合っていたりします。
そういうのを見ていると、私がこれまで経験したことに通じているなと思って本当に嬉しいです。
――1年が経ち、充実した感じが伝わってきましたが、今後はどのようにお考えですか?
K太郎 引き続き誰でも来やすい、楽しい雰囲気を継続したいと思います。怪我もなく安全管理もされている清潔なジムで、たくさんの人が楽しんでくれると嬉しいです。それでジムに通い続けてくれる人がだんだん強くなって、ゆくゆくはチャンピオンみたいな人が出てくれればすごく嬉しいし、それを目指していきたいです。
杉山 クラウドファンディングとか、あんなにたくさんの人に応援してもらえると思わなかったですし、それだけ期待というか「頑張れよ」と言ってもらったことを忘れずに、いろんな人が生活の中に格闘技を置いて、楽しい人生にしていけるようにしたいです。
K太郎さんも「あそこを綺麗にしていこうか」「ここは作り変えようか」みたいなことを常に考えてるタイプなのを初めて知って(笑)、現状維持じゃなく、いつも前進・改良していけるよう毎日いろいろ考えていきます。
取材・文/長谷川亮 撮影/高木陽春
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