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賃金上昇はわずか1%どまり

――インフレで物価が高止まりする中、今年はいわゆる官製春闘が奏功し、賃金が上がるのではないかと期待されていました。しかし、結果的には今ひとつに終わりました。

熊野(以下同)岸田首相の影響力をフル活用し、政府も大手企業を中心に賃上げを強く要請したので、定期昇給を含めて3%台後半、ベースアップだけで2%ちょっとはいくのではないかとの憶測もありました。もしこれが実現していれば、1993年以来、実に30年ぶりのことでした。

ところが、厚生労働省が6月6日に発表した4月の「毎月勤労統計調査」の結果によれば、賃金については前年比で1.0%増えたのみ。この発表には愕然としました。なんでこんなことになるんだろうと、岸田首相も、担当省庁も、行政関係者もみな泡を食ったのではないでしょうか。

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これは日本の現状を表すきわめてシンボリックなものであったと言わざるを得ません。当初、企業側に積極的に働きかけた政府関係者は手応えを感じていたようでした。4%強の物価上昇に対して賃金がパラレルに上昇していき、いずれ賃金上昇力のほうが上回る「好循環」をイメージしていたはずです。

ところが、賃金が物価を抜くどころか、まったくその兆候はなかった。政府の期待、ひいては多くの国民の期待はいわば陽炎のようなものだった。物価と実質賃金を差し引いた実質賃金はマイナス。それが紛れもない現実なのです。

そして、この実質賃金のマイナスが今回の本のタイトルにもなった「インフレ課税」の正体なのです。インフレ課税とは、私たちの暮らしが物価上昇に食われて貧しくなることで、所得・資産の実質的価値が“目減り”することなのです。

「賃上げ追いつかず 消費に水」。翌7日の日本経済新聞の第5面のあまり目立たぬところに、こんな見出しで厚生労働省発表の4月の毎月勤労統計についての記事が掲載されていました。