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約31年間に18人の次官が辞任あるいは逮捕

霞が関の事務方トップが辞任に追い込まれる―それは、日本の行政機構にとって重大な失態を意味するが、過去を振り返ると、事務次官の辞任劇は想像以上の確率で起きている(図表1参照)。

1988年、政官界に激震が走ったリクルート事件で、文部省の元次官が未公開株の譲渡を受けて逮捕された。このケースを起点にすると、2019年12月、かんぽ生命に関する情報漏洩問題に絡み総務省の事務次官が更迭されるまで、約31年間に18人の次官が辞任あるいは逮捕に追い込まれている。

1.7年に1人の割合で責任を取らされた恰好だが、官庁の中の官庁の名をほしいままにしてきた大蔵・財務省は4人にのぼり、全体の4分の1弱を占める。次官の任期は通常1年もしくは2年なので、2期(1期2年)または3期が一般的な民間企業のトップと単純に比較するのは難しいが、1.7年に一人が辞める現実はやはり異常という他はない。一時、霞が関では、「次官の椅子のあまりに軽き」と物悲しい嘆き節さえ聞かれたことがある。

主に大蔵・財務次官がどのような経緯で辞任に追い込まれたか、事例を取り上げてみる。そこには、行政の過剰介入、不祥事、古色蒼然とした体質……などさまざまな要因が絡み合うが、辞任に至る道筋には政官関係の微妙なきしみが影を落としているのも事実だった。

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『事務次官という謎-霞が関の出世と人事』より
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事務方トップの威厳を保ってきた次官という存在が、一瞬にして地に堕ちた

まず、世の中を騒然とさせた財務事務次官の辞任劇から取り上げよう。よくマスコミが好んで使うフレーズに、「前代未聞」「空前絶後」があるが、この辞任劇ほどこれらの言葉がぴったり当てはまる不祥事を知らない。そう、読者にとっても記憶に新しい、福田淳一元次官(82年=入省年次、以下同)の女性記者に対するセクシャルハラスメント(セクハラ)騒動である。

福田が次官に就任する10年ほど前から、次官の重みは徐々に薄らいできていた。それまでの同期から一人という慣行が崩れ、2人あるいは3人の次官が誕生するケースが相次いでいたからだ。そんな流れに棹差すように福田のセクハラ騒動が表面化し、その実態のあまりの品の無さに、曲がりなりにも事務方トップの威厳を保ってきた次官という存在が、一瞬にして地に堕ちたような印象を与えた。

『週刊新潮』がスクープしたテレビ朝日女性記者へのセクハラは、会話の内容が録音されていたこともあり、福田のいかがわしい肉声が巷に流れ出た。同期の中から30数年に及ぶ出世競争を勝ち抜いた次官が、こんなハレンチな言動をするのか―開いた口が塞がらないというのが世間の正直な感想だったに違いない。前代未聞と言っていいセクハラ行為を、財務省の同僚がどんな思いで受け止めたか、次官経験のあるOBから現役の中堅幹部まで、数人に率直な感想を聞いて回った。