#2 浮気が一番多いのは結婚して何年目?
#3 結婚への期待値が高まりすぎた現代の弊害

いくつものタブーを冒して開発された大ヒット商品

1990年代半ば、ファイザー社の経営状態は思わしくなかった。同社は、第二次世界大戦中にペニシリン製造のトップメーカーとして名高かったが、20世紀終盤には競合他社に追い抜かれ、ヒット商品を渇望していた。

幸いにも、希望の光が射しこんだ。ファイザー社の英国研究所が開発した狭心症の治療薬、シルデナフィルクエン酸塩に、男性を勃起させる奇妙な副作用があったのだ。そう、この薬がのちにバイアグラとなる。当時、性的不能の治療薬として承認された薬は市場に一つもなかった。ただの一つも。製薬会社にとって夢のような好機じゃないか?

バイアグラは2時間持続する。では、結婚の幸福はどれくらい続くのか? いくつものタブーを冒して誕生した大ヒット商品開発秘話_1
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だが、一つだけ問題があった。こういう薬の開発をしてもいいのか、とみんなが思っていたことだ。

雑誌『エスクァイア』の記者、デビッド・クシュナーが語るように、「当時、バイアグラを売る案は、良くてクレイジー、悪くすれば不道徳だと考えられていた」。この薬は一躍有名になり、数十億ドル規模の勃起不全治療薬市場を創出することになるが、プロジェクト初日から、ファイザー社の保守的な文化が壁となり、事業の推進に立ちはだかった。これまでの医薬品開発のなかで、最も苦しい戦いとなった。

今でこそ有名になったED治療薬を発売できたのは、ほかでもない、2人の意外なヒーローが奮闘したおかげだった。ジャマイカ出身の敏腕マーケッター、ルーニー・ネルソンと、ニューヨーク出身の臨床薬剤師、“ドクター・サル”である。
彼らは、勃起障害(ED)によって結婚生活が損なわれ、自尊心が傷つき、健康な夫婦が子宝に恵まれる機会を奪われることを知っていた。この2人の反逆者が、小さな青い錠剤を世に送りだすために社の体制に立ち向かい、周囲の圧倒的な反対を乗り越えたのだ。

研究室では、この薬の効果が証明されていた。だがその副作用は、患者に受け入れられるだろうか?

まずは、誰も支持しない薬のためのフォーカスグループに社の承認を取りつけるだけでも至難の業だった。そのうえルーニーとサルは、被験者に個室でポルノ映画を見てもらい、自慰行為をしてもらうことにも承認を得なければならなかった。

2人はどうにか会社の同意を取りつけることができた。最も一般的な副作用は、4時間ほど勃起が続くことだと判明した。率直に言って、大半の被験者はそいつはいいねと思った。第一の難関がクリアされた。患者を味方につけたのだ。