でもその前に、シティ・ポップとは何ぞや? という大命題がある。実のところ明確な定義は不可能で、一般的に言うならば、「70〜80年代に流行った、洗練された洋楽的メロディと軽快なリズムを持った都市型ポップス」とでもしておくか。
大滝詠一や山下達郎、松任谷由実、南佳孝、寺尾聰、稲垣潤一、佐野元春、epo、角松敏生、杉山清貴&オメガトライブ、少し若いところでキリンジ……あたりが代表格だが、松田聖子や野口五郎、郷ひろみなど歌謡曲の歌い手にもシティ・ポップした楽曲が少なくないし、菊池桃子のように今になって大いに再評価される往年のアイドル、シンガーもいる。
こうした近年のブーム到来は、リスナーの年代を広げたと同時に、音楽的解釈も拡散させた。竹内まりや「PLASTIC LOVE」のリエディット・ヴァージョンを動画サイトでブレイクさせ、ブームのキッカケを作ったNight Tempoは、まだ30歳代の韓国人プロデューサー/DJなのだが、最近『ジャパニーズ・シティ・ポップ100』(303 BOOKS刊)という楽曲ガイドを発行して、ブームの更なるヒートアップを目論む。
「真面目な」音楽ファンはブームに何を思う
しかしそのダンス・ミュージック目線のセレクションは、若い世代の共感を集める反面、シティ・ポップ全盛期をリアルタイムで享受した世代からは少し距離を置かれる傾向にある。
フロア受けするダンサブルなビート感や目映いばかりのキラキラ・サウンドに評価軸があり、アイドル歌謡やダンス、ポップも同等に扱うから、ブーム前からシティ・ポップを愛でていた真面目な音楽ファンからは疑問が唱えられたのだ。
元来シティ・ポップ誕生のルーツには、作詞家・松本隆がドラマーとして参加していたグループ・はっぴいえんど(大滝詠一・細野晴臣・鈴木茂と松本/1969〜73年)時代に提唱した“風街”というコンセプトがあり、当時の東京を中心とした都会のヤングカルチャーが背景にあった。
その流れから派生したのが、山下達郎や大貫妙子を輩出したシュガー・ベイブであり、ユーミンやブレッド&バター、南佳孝、小坂忠らを密接にサポートした音楽集団ティン・パン・アレイ。その音は時代的にまだまだシンプルで、サウンドを構成するロック、ジャズ、ソウル、ファンク、フォークなど音楽的ファクターのミックスには実験的要素が濃かった。
大滝詠一『A LONG VACATION』(ロン・バケ)や山下達郎『FOR YOU』を皮切りとした80年代のリッチなリゾート・ポップスも、ルーツはこのあたり。なのに海外でのシティ・ポップ再評価は、そうした洗練が進み、楽器や録音技術が大きく進化を遂げた80年代産のバブリーな作品が中心になっている。