映画は高尚なものでも独善的なものでもない

「とにかく生きる。そして辛くなったら逃げる」東出昌大が語る、悲しみとトラウマの乗り越え方_2
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──クランクイン前には、3日間現地で過ごす時間を作ったそうですね?

西日本豪雨で被災した方にお話を伺ったり、漁師さんに船を出してもらい、「漁師は何を考えて、瀬戸内の海で過ごしていらっしゃるんですか」と聞いたりもしました。一緒に食事をする機会を設けていただき、3日間みっちり過ごすことができました。

──印象的だったお話はありましたか?

お話を伺った集落では、土石流が起きたのが夜中だったらしいんです。ものすごい音がして飛び出たら、あるはずの家がなくなっていて、近隣の方が流されていたそう。「なんとかせねばならん」と思い、土石流でできた堰を懐中電灯で照らしながらよじ登ったことを教えてくださいました。

その方は、後から“正常性バイアス(多少の異常事態が起こっても、それを正常の範囲内としてとらえ、心を平静に保とうとする働き)”という言葉を知ったそうですが、当時の判断はまさにそれ。危なかったと振り返っていました。
他にも、まだ行方がわかっていない方に対する思いや、それでもその土地に住み続ける選択をなさったことなど、みなさん、ありのままを語ってくださって。そのおかげでこの映画への肉づけができたと思います。

──実際に被災された方にとっては、悲しい過去を思い出す可能性もあると思います。

もちろん、そうですね。そういう方に「でも見てください」と言えるほど、映画は高尚なものでも独善的なものでもない。万人に見てほしいとまでは言えませんが、わかったようなふりをしたり、付け焼き刃のお芝居をせず、僕らは覚悟を持って作りました。真実を撮ろうと試みて臨んだ作品なので、やっと世の中に出せるという思いも強いです。

──人は誰しも、忘れられない失敗や悲しみがあると思います。トラウマを抱える憲二を通して考えた、乗り越え方は?

どうやら、大事なのは「生き続けていく」という事実だと思うんです。映画の中で憲二は、凛子(三浦透子)という女性に出会うことで再生していきます。もしもその前に、悲しみに打ちひしがれて「死」を選択してしまっていたら、憲二が再び笑顔になれる日は永遠にこなかった。

もちろん、社会生活や学校生活、SNSなど、本当にきつい状況に直面したら、そこから逃げていいと思うんです。とにかく生きる。そして、辛くなったら逃げる。そのことが何よりも大切だと、憲二という役を通して感じました。


取材・文/松山梢 撮影/nae. スタイリスト/檜垣健太郎 (tsujimanagement)

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東出昌大
1988年埼玉県出身。2012年に『桐島、部活やめるってよ』で俳優デビューし、第36回日本アカデミー賞新人俳優賞等受賞。主な出演映画は、第71回カンヌ国際映画祭コンペティション部門正式出品『寝ても覚めても』(2018)、『コンフィデンスマンJP』シリーズ(2019~2022)第77回ヴェネチア国際映画祭銀獅子賞受賞作『スパイの妻』(2020)『Blue』(2021)『草の響き』(2021)『天上の花』(2022)など。片嶋一貴監督)、2023年3月公開『Winny』(2023)、2023年公開『福田村事件(仮)』(2023)など。

とべない風船』(2022)上映時間:1時間40分/日本

「とにかく生きる。そして辛くなったら逃げる」東出昌大が語る、悲しみとトラウマの乗り越え方_3

陽光あふれる瀬戸内海の小さな島。数年前の豪雨災害で妻子を失って以来、自ら孤立している漁師の憲二(東出昌大)は、疎遠の父(小林薫)に会うために来島した凛子(三浦透子)に出会う。凛子もまた、夢だった教師の仕事で挫折を味わい、進むべき道を見失っていた。凛子は島の生活に心身を癒されていくが、憲二の過去を知って胸を痛める。最初は互いに心を閉ざしていた2人は、あたたかくてお節介な島の人々に見守られ、少しずつ打ち解けていく……。

2022年12月1日(木)広島先行公開
2023年1月6日(金)新宿ピカデリー、ヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国順次ロードショー
©buzzCrow Inc.
公式サイト:https://tobenaifusen.com