ロシアを排除して世界的な危機に対処できるか?

別の問題も一つだけ。

ウクライナ戦争が開始されて、日本のメディアには僕はあまり利用価値がないのかもしれませんが、このところ、ヨーロッパから呼ばれるようになりまして、先々週もジュネーブで会議に参加してきました。スイスで一番大きい政府に近い類いのシンクタンクの会議です。

問題意識は何かと言うと、グローバルコモンズという角度で今大きな問題は地球温暖化ですけれども、その観点に立ったときに、英語で言うとCan we afford this engaging Russia?という趣旨です。

つまりグローバルコモンズ、世界的な危機、これだけ世界的な課題が、危機状態のときに、地球上で一番大きなステークホルダーの一つであるロシアを完全に排除して、果たして我々は生き残れるのかという話です。

特にこの会議で一番フォーカスしたのは北極です。北極の権益です。急速に氷が溶けている。溶けるとどうなるかというと、まず世界航路が変わります。あっちを通ったほうが近いので、中国が入ってくる──もう入っていますけども。それと原子力潜水艦以外の兵器が投入できることになる。

北極には先ほど紹介したアークティックカウンシルがあります。日本語でこれは北極評議会と訳されていますが、仕組みとしては北極の国連と考えていただきたい。大分違うのは安全保障理事会のように拒否権を持つ機構がないということです。

これが唯一、世界が持つ、地球が持つ北極海沿岸諸国の機構なのです。沿岸のかなりの部分はロシアです。それ以外にカナダ、アメリカ、忘れちゃいけない北欧諸国、スウェーデンまで入っています。

アイスランド、ノルウェー、そういう国が一番のステークホルダーですけども、そこに準加盟国みたいな感じで中国や、実は日本も入っているんです。重要な航路ですから、氷が溶けちゃえば。

これが権益の争いを調整していたんです。ここが本当にホットな冷戦にならないようにと。ところが、ウクライナ戦争が始まってから、この北極評議会が動いていません。ロシアとの対話はしないということになっているわけです。

このまま進むと大変なことになります。軍事的にも外交的にも。それと地球規模の地球温暖化に抵抗することもできなくなる──抵抗できるかは分からないけれども。

この会議には、そういう問題意識を持つ、アメリカ、日本、中国、デンマーク、今回、中立からNATOの加盟国になると表明したスウェーデン、ノルウェー、アイスランド、インドの学者や専門家が集まりました。

日本からは僕ということでディスカッションしてきました。1回限りじゃなくて、これをチームとしてやっていこうということになった。

なぜジュネーブに集まったかというと、スイスしか今、ロシアの専門家を呼べないんです。それと、この戦争を多角的に議論するということは、特にヨーロッパではできません。大学でもできません。

この戦争を多角的に議論しようとするとすぐ、お前はロシアの味方かとなってしまうわけです。その差別が今、日本より徹底しています。それぞれの国の学者が、本国で言えばいいじゃないかと僕は思うんだけど、それができないので、唯一できるスイスのジュネーブに集まったわけです。

この集まりはずっと続きます。日本からの代表者が実はもう一人いるんですけれども、その人のことは言えません。実はこの会議は典型的なチャタムハウスルールという厳格な秘密主義のルールがありまして、会議の中での内容を話せるけれども、誰が何を言ったか誰が出席したかということは一切言わないということで、初めてこういう会議ができるわけです。

でもアメリカに関しては、あの有名な研究所の所長が来ました。彼でさえアメリカでは言えない。キッシンジャーさんとか、ミアシャイマーさんのように変人扱いされるみたいな感じになっているわけですね。

だからこのグローバルコモンズという考え方、多分古代の戦争とここが一番違うところですが、核の心配をしなきゃいけない。それは古代にはなかった。それで今、原発が戦場になるという新たな恐怖が加味されたわけですよね。

それと地球規模の課題です。地球そのものが破壊されるかもしれないということ。その中でこの戦争をどう考えるのか。どういうふうになるかを見越して、少なくとも政権に、政治に発言力のあるセカンドトラックの立場にいる学者とか研究者が、どうやって協働できるかという話です。この会議は続きます。だから少し流れが変わってきてはいるということです。

撮影:等々力菜里

関連書籍

第3回 安全保障を口実にした辺境の人々の権利抑制は許されない_3

非戦の安全保障論 ウクライナ戦争以後の日本の戦略

オリジナルサイトで読む