「この人、北朝鮮の人なんすよ」
お昼前に目が覚めると、首と左顎に痛みがあった。昨夜はパニック状態で、何が何だかわからなかったが、改めて被害に遭った実感が湧いた。そういえばスマホを奪われたままで、これでは何もできないと困っていたのだが、幸いなことになんば駅に届けられていた。
スマホを受け取って通知を確認すると、Facebookにたくさんのコメントやシェアがされていて、友人からの連絡通知もかなりの数がきていた。それでTwitterにもこの出来事をツイートしたところ、ものすごい勢いで拡散され、色々な方々から「力になります」「サポートします」といったメッセージが届いた。
アドバイスの中には、「今後、警察に行くにしても弁護士をつけた方がいい」というものもあり、僕自身もこの理不尽な暴力に対して怒りがあったので、被害届ではなく告訴状を出す準備をすることにした。
すると、被害に遭った二日後の10月12日の朝、僕のホームページに一通の連絡が来た。それはA氏からだった。実はA氏は、僕の公演を10年ほど前に学校で見ていて、インスタグラムもフォローしている人物だった。
本当は騒動の後、SNSから連絡をしようと思っていたらしいが、Twitterのリツイートの数を見て萎縮してしまったそうだ。A氏によれば、B氏は示談を望んでいるが、事が事なだけに、きちんと自分で罪を償う覚悟はあると話しているという。
すぐに弁護士に連絡し、告訴状を一旦止めてもらって、ひとまずはA氏の話を聞くことにした。あの日の夜、A氏は「うわ! ちゃんへん.やんけ!」とは言ったものの、ニュアンス的には「うわ! ちゃんへん.さんだ!」という感じで悪意はなく、むしろ道で遭遇したことに興奮したのだろう。
ただ、問題はここからだった。A氏はB氏に「この人、北朝鮮の人なんすよ」と伝えたというのだ。実際には「朝鮮の人」ではあっても「北朝鮮の人」ではないのだが、この「北朝鮮」というワードにB氏が過剰に反応したのは間違いなく、そのワードから連想されるネガティブなイメージから暴行に及んでしまったのだという。
ちなみにB氏は当時泥酔状態で、その時の言動もまったく覚えていないらしい。だからといって許されることではないが、僕自身、少し時間が経ったこともあり冷静に考えてみて、その後、弁護士同席でB氏に会うことにした。
B氏が根っからのレイシストなら法的に戦うべきなのだろうが、まずは、酔っていたとはいえ今回のような言動の原因を知ることが大事だと思ったからだ。