悪役でもヒーローになれるときがある

「ジョニー・デップの模倣はしたくなかった」――。映画『ファンタスティック・ビーストとダンブルドアの秘密』で“新グリンデルバルド”を作り上げたマッツ・ミケルセンの胸中_d
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ジュード・ロウが演じたダンブルドア(右)

――ダンブルドアとの関係性はどうでしょう? ふたりの間にくすぶっている愛情をどう表現しましたか?

その点については監督のデビッド(・イェーツ)とはもちろん、ジュード(・ロウ)とも何度も話し合った。最初に撮影したのは、映画の冒頭に出てくるカフェのシーン。グリンデルバルドとダンブルドアが再会する場面で、私たちはたくさんの共通点を持つかつてのソウルメイトを表現したと同時に、お互い違う道を選んでしまい、失望をしたというような雰囲気も表現している。このシーンを最初に撮影するのは、なかなか興味深いものだった。『ファンタスティック・ビースト』の世界に入るために、よいスタートを切れたと思う。

――本作のプロデューサー、デビッド・ハイマンは「本作で、善と悪の指導者がどちらともゲイであるという設定をとても気に入っている」と言っていました。世界的なファンタジーでも、そういうLGBTQの要素を入れることについて、あなたはどういう意見をお持ちですか?

何と言えばいいのかな……というのも、私はそういう要素について、あまり考えたことがないんだ。つまり、セクシャリティや人種、それぞれのアイデンティティというのは、あまり重要でないと思っている人間のひとりなんだよ。もっとも大事なのは、その人がどんな人物なのか? 何を内包しているのか? なんだと思う。そういうときにセクシャリティや人種は関係ないだろ?

――おっしゃる通りです。では、最後の質問です。『007/カジノ・ロワイヤル』や、先ほどの『ハンニバル』等、あなたが演じる悪役はいつも驚くほど魅力的です。悪役を演じる上で、ポリシーにしているようなものがあるのなら、教えてください。

先ほどの答えと重なる部分もあるんだが、やはり理解することであり、その人物がどういう視点を持っているのかをクリアにすることだと思う。そうすれば、悪役でもヒーローになれるときがある。また、身体的、精神的にも魅力的に見せることが大切だろう。彼らの喋る言葉が、観客の心に響くものであったほうがいいとも考えている。つまり、「こいつがやっていることは悪いが、確かに一理ある」と感じさせたいということだ。観客にそういうジレンマをおぼえさせれば、その映画はより面白くなるし、悪役も魅力的になる。そういうキャラクター作りを、私は心掛けているんだよ。

『ファンタスティック・ビーストとダンブルドアの秘密』(2022)Fantastic Beasts: The Secrets of Dumbledore/上映時間:2時間23分/イギリス・アメリカ 
大ヒット上映中
https://wwws.warnerbros.co.jp/fantasticbeasts/index.html

「ジョニー・デップの模倣はしたくなかった」――。映画『ファンタスティック・ビーストとダンブルドアの秘密』で“新グリンデルバルド”を作り上げたマッツ・ミケルセンの胸中_e

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マグル(人間)を排除し、魔法族だけの世界を作ろうとする最強の闇の魔法使いゲラート・グリンデルバルド(マッツ・ミケルセン)は、魔法界の指導者を決める重要な選挙に立候補。彼の野心を砕きたいアルバス・ダンブルドア(ジュード・ロウ)は、自身の教え子であり魔法動物学者のニュート・スキャマンダー(エディ・レッドメイン)に魔法動物のなかでも極めて貴重な“キリン”を探し出すよう命じる。キリンのある能力が、今回の選挙で重要だと気づいたからだ。その一方、ダンブルドアは、徐々に力を増しているグリンデルバルドと対峙するため、ニュートを中心にした寄せ集め軍団を組織する。そこにはマグルのジェイコブもいた。『ハリー・ポッター』シリーズのプリクエル(前日譚)として、『ファンタスティック・ビースト』の3作目。

マッツ・ミケルセン●1965年デンマーク、コペンハーゲン生まれ。体操選手からダンサーを経て役者になる。母国でブレイクしたのは、麻薬の売人に扮したバイオレント映画『プッシャー』3部作(96~05)。世界的に注目されたのは大ヒットシリーズ『007/カジノ・ロワイヤル』(06)の悪役だった。デンマーク映画『偽りなき者』(12)の演技でカンヌ国際映画祭主演男優賞に輝き、アカデミー国際長編映画賞を受賞したデンマーク映画『アナザーラウンド』(20)では主人公の高校教師を演じている。このあとの出演作に、23年6月に全米公開予定の『インディ・ジョーンズ5』。デンマークとハリウッドで活躍を続けている個性派アクター。

取材・文/渡辺麻紀 構成/松山梢