スズキの選択は自らの首を絞めていないか

また、MotoGPの現場で戦うTeam SUZUKI ECSTARのライダーとスタッフたちは、事前告知なしに企業から雇い止めを言い渡されたに等しい状況といっていい。撤退という企業決定を自分たちでは覆せない以上、レース結果で一矢報いて見返してやろう、という思いを胸に彼らはずっと戦い続けてきた。

最後のレースとなったバレンシアGPの決勝で、リンスはスタート直後にトップで1コーナーへ飛び込んでいくと、全27周の戦いで誰にも一度も前を譲らなかった。終始一貫して先頭を走行し続けトップでゴール、という最高に力強い走りで優勝を達成した。

こんなに最高のチームと最高のライダーが最高のバイクで最高の結果を出して、世界中に広くブランド訴求をできる陣営が、今回限りで解散してしまうのは、スズキ株式会社の撤退という決定がいかに理不尽かつ非合理的であることをあらためて浮き彫りにしたのではないか。優勝を飾ったリンスにそんな問いを投げかけると、

「その質問こそが答えだろうから、僕からは回答を差し控えるよ」

という機知に富んだ言葉が戻ってきた。

「その質問こそが答えだ」有終Vのリンスが、MotoGP撤退のスズキに送った“苦言”_3
スズキの撤退について多くを語らなかったリンス

今シーズン、大いに存在感を発揮したドゥカティは、15年間の雌伏に耐えながら、戦闘力を高める地道な努力を営々と続けて一大勢力を築き上げるに至った。一方、そのドゥカティの力押しのような勢いに呑まれ、ヤマハはシーズン後半に大きく失速していった。

また、トップクラスの高い戦闘力を持ちながらレースの世界から去って行くスズキ陣営は、環境性能開発とEV化という自動車産業にとっての喫緊の急務に対応するため、目先の利益を生むわけではない二輪ロードレースを切り捨てて撤退を選択した格好だ。

その意志決定は、合理的な〈選択と集中〉を合い言葉に企業としての効率を優先したつもりでも、その実、目先の時流にただ振り回されながらどんどん自分で自分の首を絞め、自ら体力を削ぎ落としていることに気づかずに痩せ細っていくような感すらある。

ホンダやヤマハなど日本メーカーが製作するバイクを駆るライダーたちが当たり前のようにしのぎを削り覇を競った時代は、もはや過去のものになりつつあるのかもしれない。

2023年のMotoGPは、ドゥカティ8台、アプリリア4台、KTM4台、とヨーロッパメーカー勢が計8チーム16台なのに対して、日本メーカーはホンダが4台、ヤマハは2台の3チーム6台、という実に小さな勢力だ。

このように、MotoGPに参戦する欧州企業と日本企業の勢力関係は、7~8年前なら想像もできないような地殻変動を起こしはじめている。そしてその様相は、かつて隆盛を誇っていたはずの市場で苦戦を強いられている、多くの日本企業の姿を合わせ鏡で見ているようだ。

「その質問こそが答えだ」有終Vのリンスが、MotoGP撤退のスズキに送った“苦言”_4

取材・文/西村章 写真/西村章 MotoGP.com