現代人が忘れかけている人と人のあたたかい絆
――漫画雑誌「思い出食堂」で魚乃目先生が寄稿している作品では、食を通じて家族の絆を描いています。話のモデルはご自身で探しているのでしょうか?
半分実話、もう半分を僕と編集部で作り出しています。実話の部分は、街中で僕が実際に見聞きしたことでして、特に僕の作品でよく登場する町工場は、昭和の匂いを残した東京の下町がモチーフなんです。
町工場では、基本的にノルマが終わったら上がってOK。夕方になれば町の居酒屋はすぐに労働者でいっぱいになります。
ワイワイ、ガヤガヤしているのですが、驚くことになんと子どもも勝手に来ていて、一緒になってごはんを食べているんですよね。
そこでは小学校から帰宅し、自宅にランドセルを置いてすぐに遊びに行く、遊び終わったら銭湯に行きお風呂に入る、ごはんは居酒屋か友達の家で食べる……といった風景が繰り広げられています。
そういった人のつながりってとてもあたたかいものだと思うんです。こうした実話を下地にした食のエピソードを通じて、読者のみなさんには人と人の絆の深さを感じてもらえれば、と思っているんですよ。
――魚乃目先生の作品やイラストからは、家族団欒や大衆食堂の和気あいあいとした雰囲気など、現代人が忘れかけている古きよき人と人のつながりを感じます。
僕自身、そんな光景が大好きなんですよね。親戚が集まったり、お祭りで神輿を担いだり、たくさん人が集まっている賑やかな場面には本当にワクワクしてしまう性分なんです(笑)。
表紙やポスターはセリフを入れられないので、絵そのもので見る人の心に訴えかけなくちゃいけませんよね。
でも僕は自分の画力にそんなに自信がないので(笑)、一人の人物とか一つの料理をドーンと描くより、たくさんのキャラクターを描くことが多い。
絵のなかの一人ひとりがどういう行動をして、どんな会話をしているのかわかりやすく描くようにしています。
つまみに手を伸ばしながら仲間の顔を見て笑っている人、片手を上げて申し訳なさそうにしている人……などキャラクターたちのちょっとした物語がわかるように描いています。