プーチンと27回会談した安倍元首相
古賀 そうですかね。米英やオーストラリアなど、アングロサクソン国家には受けはよかったかもしれないけど、欧州やアジアではいまひとつだった。
たとえば、ドイツのメルケルさんなどからはちょっとバカにされていたようなところがあったし、フランスのマクロン大統領なども表向きに安倍さんに丁寧に接しているように見えて、本音の部分ではやっぱり米国に隷従する日本をバカにしているような部分が透けて見えていた。だから国葬にも来なかった。
中国や韓国といったアジア近隣国との関係も最悪になってしまったが、これは外交安保上深刻な問題。長く首相をやって数多くの外国首相に会ったわりには、実のある外交成果に乏しかったというのがぼくの評価です。
高橋 メルケルはロシア寄りでエネルギーのロシア依存が高くして、さらに原発も廃炉したので、今はドイツ国内でもかなり批判されていますね。
たしかに、安倍さんはプーチンと27回も会談したのに、北方領土でも何の成果も残せなかったという批判があるのは承知しているよ。でもね、北方領土は戦後70年も解決できなかったし、私は在任期間の長さ=外交力だと思ってます。
だからこそ、在任中に一度もプーチンと会談できない外国首脳も珍しくない中で、安倍さんは断トツの27回も積み重ねてこれた。日ロの首脳が交流している間は2国間関係も外交的におかしなことになることはないと考えると、それだけでも安倍外交ってけっこうすごかったと思うよ。
古賀 いやいや、地球儀を俯瞰するとぶち上げたわりには、安倍外交はアングロサクソン国など、ちょっと右っぽい国との関係に偏ってしまった部分は否めない。それよりもEUや北欧、そしてASEAN諸国などとの関係をもっと深めた方がよかった。
ちなみにEUや北欧諸国は賢明な政府が多くて、エネルギー政策やミクロの経済政策などで、質の高い政策を切磋琢磨しながら着実に打出している。そちらとの関係を強化した方がずっと日本も賢明な政策が実施できただろうし、国際的ポジションも高めることができたと思う。
高橋 外交にはリアリスト(現実外交)とイデアリスト(理念外交)の2種類があるが、過去のデータ、事例を見ても、結果を残してきたのはリアリストだと国際的には決着がついている。人によって安倍外交の評価はさまざまだけど、安倍さんがきわめて現実的な外交や安全保障を推し進めてきた優れたリーダーだったことは間違いないね。
写真/村上庄吾 AFLO